コラム記事

Vol.84

2024.3.5 会議の進め方で会社の生産性がわかる

 

定例会議の進め方で、その企業の生産性を把握することができます。
生産性の低い会議の典型的な進め方は、以下の通りです。

1)会議の場で「問題点の提示」があります。
「商品Aにクレームが頻発しています」「今月は単月で営業赤字になりそうです」など、
会議出席者に対する事前の案内がなく、会議の場で初めて問題点が共有されます。

2)上長が問題の状況を理解するため、「問題点のヒアリング」を行います。
「なぜそんなクレームが起きてるのか?」「どの程度の赤字になりそうなのか?」など、
問題点を明確化にするためのヒアリングが上長から行われます。
当事者が事実情報を掴んでいないと、「その件は調べておきます」と保留されます。

3)問題解決のための討議が始まります。
「商品Aの出荷をすぐに止めるべきか」「お客さんになんと説明すべきか」
「来月に向けて新規開拓を強化したらどうか」など、
意思決定のための討議が、延々と続きます。

生産性の低い会議では、事前に行うべき「問題点の共有」「問題点に関する事実確認」
「問題点の解決案の立案」が会議の場で行われるため、長くなってしまいます。

それに対して、生産性の高い会議のやり方は、こんな流れです。

1) 問題点とそれに関する事実情報を、定例会議の前に上長や関係者に対して報告します。

2) 問題点に対する上長のヒアリングも、会議の前に行われます。

3) 会議の場では担当部門から、問題点に対する、暫定対策案(当面どうするのか)と、
恒久対策案(抜本的にどうするのか)が提示され、どの案を採用すべきか討議されます。

このように、生産性の高い会議の場では、意思決定がなされ、
そして、合意の形成とその後の役割分担などの調整が行われます。

なぜこのような会議の違いが起きるかは様々な要因がありますが、
要因のひとつに「各部門、各担当者の当事者意識の希薄さ」が挙げられます。

「解決策は上層部が決めて、その指示に従う」という意識が担当者に根付いていると、
自分の業務上の問題点について、本気で考え、対策を考える意識が希薄になります。

社長が社員に対して、「もっと当事者意識を持て」と言葉で言うだけではあまり効果はありません。
なぜなら、社員が当事者意識を持って仕事を進める「仕組み」を作るのは、社長の仕事だからです。

会議のやり方を変えれば、会社が変わります。

Vol.83

2024.2.20 ダシが取れる高級もやし

 

前回に続いて「手間暇かけた製品づくり」で、価格競争を回避している事例のご紹介です。

埼玉県深谷市でもやしの生産を手掛ける飯塚商店の「深谷もやし」は、
通常のもやしの価格の5~7倍ですが、一度食べると他のもやしは食べられないほど
風味と食感に優れ、リピーターが続出しています。

深谷もやしの高価格の理由は、収穫・洗浄・袋詰めを全て手作業で行うためです。
1人の作業者は1時間で100個の作業が限界なため、その分、もやしの値段も高くなります。
これは、機械によるライン生産をしている普通のもやしの作り方と真逆です。

価格は高くなりますが、全て手作業で行うのでもやしの痛みを最小化できます。
もやしを痛めないことで、もやし本来の風味を壊すことなく、
シャキシャキ感の歯ごたえを味わうことができます。

また、手作業で行うことで、普通のもやしでは考えられないダシが取れます。
普通のもやしだと水っぽくなりますが、深谷もやしはダシが楽しめるほど、味が濃いです。

また、栽培法の違いが栄養価に影響が出るため、血圧を下げる効果があるギャバが、
普通のもやしと比べて8倍です。
その他、総アミノ酸、グルタミン酸、糖度、アルギニン、分枝鎖アミノ酸なども、
他のもやしに比べて豊富です。

今は大評判の深谷もやしですが、高価格のものは黙っていたのでは売れません。
安いものは値段を見ればわかるので、売りやすいと言えます。

しかし、高価格のものは「コストをかけて作っているから、価値が高く、価格も高い」ということを
しっかり伝えなければ売れません。
高価格なものが売りにくいのは、この価値をわかってくれる顧客層に、どうやって伝えるかが
結構大変だからです。
「よいものが売れる」のではなく、「よさが伝わって初めて売れる」といことですね。

価値の伝達は「合わせ技」です。
コストと効果を考えて、様々な販売促進策を打つ必要があります。

ちなみに、飯塚商店は、口コミ、収穫体験、SNS、パブリシティ活用などを行っています。
https://vegepark-fukaya.jp/tamesu/9

Vol.82

2024.2.6 簡単にできると簡単にマネされる

模倣戦略は、他社の優れた製品やサービスを参考にして事業を展開し、収益を確保しようとする戦略です。

同質化戦略とか二番手戦略とも言われ、様々な市場で事例を見かけますが、
市場参入における後発者の戦略としては有効な面があると言えます。

それでは、先発して市場に参入して一定のシェアを築いた企業、
すなわち「模倣される側」には防御策はないのでしょうか?
固い言葉で言うと、「模倣困難性の確立」です。

特許のような知的財産権でガードすることができれば、それが理想です。
しかし、知的財産権で防げない場合でも、
「手間暇かけた製品・サービスづくり」でガードすることが可能です。

手間暇かけた製品づくりで模倣を防いでいる事例として「チョーヤ梅酒」があります。
チョーヤ梅酒はサントリーやメルシャンなどを抑え、国内梅酒3割のトップシェアです。

チョーヤ梅酒は、「材料」と「製法」に徹底的にこだわっています。

まず材料は、梅、糖類、酒類の「天然素材のみ」を使用しています。
ところが低価格品は、酸味料、香料、着色料などを混ぜて作ったものが多いです。
チョーヤの梅酒は原価の約7割が梅ですが、低価格品はその梅を使わないので、
かなり安く製造することができます。

チョーヤ梅酒は、一時、低価格品に押されてシェアがかなり落ち込みましたが、
この材料で作る方針を守り抜きました。

その後、日本洋酒酒造組合が、梅、糖類、酒類だけを原材料とする梅酒を「本格梅酒」と定め、
「本格梅酒」は酸味料などで作った梅酒と比べて、ポリフェノールを多く含むなど、
品質の違いが消費者に周知されるにつれて、徐々にシェアが回復しました。

また、製法へのこだわりについては、約5000件の契約農家といっしょに、
土作りから研究した高品質の紀州産の梅を中心に、国産の梅のみを使っています。

最長18年間も貯蔵タンクに漬け込み、じっくり熟成させた個性の違う梅酒を
ブレンドするなどして製造しています。

このような材料や製法へのこだわりは、手間暇がかかるのでなかなか模倣できません。
一般的に、模倣戦略を取ろうとするような企業は、手っ取り早く収益を上げたいために
他社の模倣をするので、そもそも面倒くさいことはやりたがりません。

手間暇をかけて、顧客が満足する品質の商品・サービスを作り込む、
そして、ぶれずにその方針を守り抜く。
簡単にできることは、簡単にマネされてしまいます。

Vol.81

2024.1.23 顧客の顧客を分析する

 

ビジネスを成功させるためには、「顧客のニーズを把握せよ」とよく言われます。
顧客の先には、その顧客の顧客が存在します。
そして、顧客は、その先の顧客のニーズを持たすことでビジネスをしています。

ということは、顧客の顧客がどのような要求を持っているのか、どのような課題を抱えているのか、
を分析すれば自社の顧客のニーズを把握することができます。

例えば、顧客の顧客が、顧客に対して「コストダウン」を要求しているとします。
そうすると、自社の顧客は、顧客の顧客の要求に応えるために、調達や業務のムダを改善して、
「売上原価や販管費の削減を図りたい」というニーズが発生します。

また、顧客の顧客が、顧客に対して「納期の迅速化」を求めているとします。
そうすると、自社の顧客は、顧客の顧客の要求に応えるために、IT化や物流見直しなどで、
「納期短縮のネックになっている業務を改善したい」というニーズが発生します。

言われてみれば当たり前のような話ですが、
顧客の顧客のニーズを探ったり、仮説を立てたりすることは、意外と行われていません。

能登半島の震災から3週間以上経過しましたが、避難所で暮らす人々にとっては、
当面の間、非常食や保存食が食事の中心となります。

非常食は炭水化物が多いので、どうしても野菜不足になりがちです。
カゴメは、当初はギフト需要をメインとして開発した「野菜たっぷりスープ」の
賞味期限を5年半に延長し、非常食として位置づけ、ヒットしています。

これを実現できたのは熱・光・酸素を通さない特殊フィルムの包装パッケージの存在です。
このパッケージを採用することで、食品の劣化を防ぎ、長期の賞味期限を実現できました。

包装パッケージメーカーにとって、直接の顧客は食品メーカーで、その先の顧客は消費者です。
その消費者を、「被災者や、被災者を抱える自治体や高齢者施設」とセグメントし、
そのニーズを、「被災中でも野菜を取れる備蓄品が欲しい」と分析することで、
「野菜スープを長期保存できる包装パッケージ」という製品アイデアが生まれます。

改めて、自社の顧客の顧客は誰で、どのような悩みや課題を抱えているのか、
を考えてみることは、自社のビジネスを見直す上で、ヒントになります。

Vol.80

2024.1.10 価格決定力を高めるためには

 

思うように値上げが実現できず、利益のねん出に苦しんでいる中小企業は少なくありません。
値上げに関する本の多くは、値上げの交渉方法や値上げの根拠となる原価計算の仕方など、
値上げの「戦術」面を説いているものです。

また、国も「適正取引支援サイト」を立てて、受注側・発注側の双方に、
下請法に抵触しない取引のあり方などの啓蒙に努めています。
https://tekitorisupport.go.jp/

このような、値上げ戦術を説明する本や、国の適正取引支援はとても重要ですが、
主にここで説いているのは、材料費や労務費などのコストアップ分を、
「商品・サービスの本体価格にいかに転嫁するか」という視点です。

コスト転嫁の値上げ戦術は重要ですが、
そもそもの「本体価格をいかに引き上げるか」という視点も必要です。

「本体価格をいかに引き上げるか」という際に重要になるのが「価格決定力」です。
自社に「価格決定力」がなければ、交渉のテクニックだけでは効果が限定的になります。
また、価格よりも優先される「自社が選ばれる理由」があるかどうかも重要です。

つまり、値上げ戦術の前に、値上げ可能性を高めるための「戦略」とその実践が必要です。

私はコロナ禍以降の3年間で、非価格競争で成功している中小企業を150社以上見てきて、
戦略の共通項を見出しました。

戦略の特徴は、大企業対策と中小企業対策に分かれます。
1)大企業対策→大企業が参入の魅力を感じないニッチ市場に絞り込む。
2)中小企業対策→他の中小企業に対して模倣障壁を築く。

1) はニッチ市場であれば規模の経済性が期待できないので、大企業は参入しません。
2) は特許、ブランド、顧客サービスなどで、他の中小企業がマネしにくい仕組みを作ります。

私は、今年は「価格決定力」を高めるノウハウを提供することで、
国の適正取引支援策がより有効に活用できるような支援に注力したいと考えています。

Vol.79

2023.12.12 労務費を取引価格に転嫁するために

 

円安が進行し、エネルギーコストや原材料コストの高騰が続いています。

また、最低賃金の引き上げや深刻な人手不足の影響で、労務費も上昇傾向です。

このような環境下において、「下請事業者」が持続的に事業を続けるためには、
発注者である取引先に対して、コスト上昇分を取引価格に転嫁するための価格交渉が必須です。

中小企業庁も7~8年前から、下請法のガイドラインや価格交渉のノウハウをまとめて、
発注者・受注者(下請け)双方に対して、適正な下請取引の環境づくりを強化してきました。

私も、数年前まで中小企業庁の価格交渉支援の専門家に登録していた時期があり、
下請法関連のセミナーを何度か担当しました。
セミナーのQ&Aの時間でよく出る質問が、労務費の価格転嫁が難しいというものでした。

中小企業庁が作成した価格交渉ハンドブックによると、価格転嫁に成功した企業の中で、
「原価を示した価格交渉が有効だった」とする企業が半数近くを占めています。

つまり、しっかりと原価を把握し、販売価格に転嫁すべき金額を明確にすることができれば、
発注者に対する値上げ要請の根拠になります。

製造業の原価要素には、原材料費、エネルギー費、労務費、設備の減価償却費などがあります。
この中で、原材料費は比較的やりやすいのですが、労務費を製品ごとの原価に落とし込むことは
中小企業では簡単ではありません。
こうした背景もあり、労務費の価格転嫁はほとんど進んでいませんでした。

しかし、令和5年の労使交渉による賃上げ率は約30年ぶりの高い伸びとなり、
来年以降もこの流れが続くトレンドのなか、下請け企業の価格転嫁がうまく進まないと、
「値上げ困難型」「物価高型」の倒産が続出しかねません。

その対策の一環として、先月末、公正取引委員会から
「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が示されました。


内容としては、下請け事業者の求めがなくても、定期的に労務費の転嫁について協議することや、
価格交渉にあたり、最低賃金の上昇率、春季賃金交渉の妥結額や上昇率などの資料を根拠として
尊重することなどが盛り込まれており、今までよりも、かなり前進した内容になっています。

中小企業では、製造業で約半数、運送業では8割近くが、下請け取引をしていると言われています。
今後、交渉ノウハウなどのハンドブックなども出てくると思います。

「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/nov/231129_roumuhitenka.html

Vol.78

2023.11.28 フォアボールで査定アップ

 

今年のプロ野球は阪神が38年ぶりにセリーグ&日本シリーズを制しました。

23日のオリックスとの同時パレードも、午前・午後で96万人を動員して、
大いに盛り上がったようです。

私は千葉県在住ですが、昔からタイガースファンです。
前回の日本一の際は、社会人1年目でしたのでよく覚えています。
同期入社に、巨人ファン、大洋(現:横浜DeNAベイスターズ)ファンの友人がいて、
飲み屋でよく野球の話をしました。

昨年の阪神は、リーグ1位のチーム防御率を誇る投手陣を持ちながら、
得点力不足に悩まされて3位に終わりました。
昨年と今年で戦力が大きくは変わらない中、何が優勝の決め手になったのでしょうか?

昨年と今年のチーム成績の比較は以下の通りです。
・打率 2022年 0.243 → 2023年 0.247(リーグ2位)
・ホームラン 2022年 84本 → 2023年 84本(同5位)
・得点 2022年 489 → 2023年 555 (同1位)
・得点圏打率 2022年 0.241 → 2023年 0.270 (同2位)
・四球 2022年 358 → 2023年 494 (同1位)

注目すべき点は、ホームラン数が昨年と同じでリーグ5位にも関わらず、
年間得点数が66点も増え、リーグ1位になっている点です。

この大きな要因は、四球数が38%も増えて12球団最多になったことです。
四球が増えて出塁数が増えたために得点圏のチャンスが増え、
得点圏打率も伸びたために得点数が増えました。

ホームランが期待できる選手が少なく、本拠地の甲子園球場はホームランが出にくいため、
四球増でチャンスを増やし、単打をつないで得点を取るいう戦略は理にかなっています。

更に、岡田監督は戦略を実践に落とし込む工夫をしています。
それは、球団に交渉して四球の査定ポイントを上げさせたことです。

プロ野球選手は個人事業主です。
個人事業主を含めたビジネスマンは、基本的に、評価制度の通りに行動します。
「ボールをよく見て、しっかり四球を選べ」と単に指示だけに終わるのではなく、
四球が査定につながことを伝えることでモチベーションも変わってきます。

・会社業績の向上に向けて、社員にどのような行動をして欲しいか。
・そして、その行動を評価制度に組み込んで、しっかりと評価する。
基本的なことですが、意外とできていない「凡事徹底」の重要性を改めて知らされました。

Vol.77

2023.11.14 わかりやすい導入事例で差をつける

 

ビジネスの大前提になりますが、人は営業されること(売り込み行為)が嫌いです。
売り込み行為とは、顧客ニーズを充分に把握せずにセールスすることです。

例えば、最近多いのが「フォーム営業」と呼ばれている営業スタイルです。
これは、企業のホームページにある問い合わせフォームへ営業メールを送る手法です。
当社にも様々なフォーム営業のメールが毎日のように来ますが、
事前に当社のニーズを把握しているわけではないので、ほとんどが不要な情報です。

人は営業されることは嫌いですが、逆に、好きなこと・欲しいものは何でしょうか?
それは「成果」や「成功」です。

成果や成功に関する情報として、特にBtoBビジネスでは「導入事例」が有効です。
自社の課題解決のために、どこの製品やサービスを導入するか迷っている顧客に対して、
「自社の製品やサービスの特長」「他社との比較優位性」「成果」などが、
コンパクトにまとまっている導入事例は、購買の意思決定の参考になります。

BtoBビジネスでも商談単価が高いものは、導入事例だけではなく、
最終的には提案書を参考にして意思決定する流れになりますが、
商談単価が低いものは、導入事例の内容を見て購買の意思決定を固めることも多いです。

そのような顧客は、導入事例を見ることで、納得して購買したいと思っています。
よって、自社の選択は間違っていないという気持ち後押しできるようなまとめ方がいいです。

よくみかけるわかりづらい導入事例は、「特長」「優位性」「成果」などが、
見出しがない文章で、ずらずらと記述されているものです。
見出しがないと、ひと目見た時に伝えるインパクトが弱くなります。

目を引きつける見出しはキャッチコピーの役割もあり、重要な要素です。
一例として、キーエンスの導入事例をご紹介します。
https://www.keyence.co.jp/ss/products/3d-printers/agilista/example/001.jsp

見出しはこんな感じになっています。
1.自らの手で検証ができないというジレンマ(=企業の課題)
2.すぐ導入しよう!社長の一声で決まった3Dプリンタの導入(=解決策)
3.キーエンスの3Dプリンタ導入の決め手は「精度」(=他社との比較優位性)
4.キーエンスの3Dプリンタによってもたらされたもの(=成果)

特に、4の成果については、設計不具合による手戻りが60%減と大幅に改善された。
また設計のリードタイムも15%削減され、業務効率も向上した。
など、定量的に示されているので説得力があります。

Vol.76

2023.11.1 異業種からヒントを得る

ラグビーワールドカップが南アフリカの優勝で幕を閉じました。

私は日立台サッカー場が近いので、シーズン中はよくJリーグを見に行きます。

WOWOWでヨーロッパのサッカーを見ることも多いですが、

今回のラグビーW杯は、ほぼ毎試合見ました(深夜・早朝が多いので録画ですが)。

ラグビーのルールに詳しくなるにつれて、普段見ているサッカーとの違いで気づきがありました。
例えば、イエローカード・レッドカードの対応です。

ラグビーでは、サッカーと同様に危険なタックルなどに対してイエローカードが出されますが、
サッカーは1枚目は「警告」、2枚目で「退場」となります。

それに対し、ラグビーはイエローを提示されたら10分間、「一時退場」しなければなりません。
10分間、14人で戦わなければならないので、これは大きなペナルティです。

しかし、サッカーの場合は、1枚目は警告なので、
「イエロー覚悟で相手を止める」と言った故意の反則がよく見られます。
それに対して、ラグビーはイエローの代償が大きいので、故意の反則は少ないように思います。
このような一時退場は、アイスホッケーの「ペナルティボックス」も同様です。

また、審判がイエローを出して10分間の退場の間に、
TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)のメンバーが、プレーをビデオで検証します。
そして、そのままイエローが妥当だと判断すれば10分後に試合に復帰できますが、
悪質なプレーと判断されると、イエローがレッドに代わり、もうその試合には出られなくなります。

これは試合を止める時間を最小化して観客へ配慮しつつ、判定の正確性も求めるよいルールだと思います。
サッカーもラグビーも、審判は常にボールといっしょに動き、一瞬でプレーの判断をしなければなりません。
イエロー・レッドの判断で迷う場合は、審判自らがビデオでチェックして決定しますが、
その間、試合が止まってしまうので、あまり時間はかけられません。

しかし、今回のラグビーW杯では試合を続けながら、専門のメンバーがビデオで8分間じっくり検証できます。
この仕組みはサッカーでも参考にすればいいのにと思って見ていました。

ビジネスでも、異業種の取り組みが自社の商品・サービス見直しのヒントになることがあります。

例えば、コマツは建設機械にGPSとセンサーを搭載した「コムトラックス」によって、
盗難防止や建機が壊れる前の予防保守の仕組みを構築し、他社との差別化に成功しました。
これは、工作機械や複合機を通信回線経由で遠隔監視し、予防保守する仕組みを参考にしたと言われています。

「富山の薬売り」に着想を得た、オフィスグリコ(菓子ボックスによる無人販売)のような事例もあります。

これらは、異業種の取り組みによる気づきをきっかけに、自社向けにアレンジして移植したものです。
商品・サービス見直しのヒントは、隣の業種にあるかもしれません。

Vol.75

2023.10.17 生産性向上の身近な例

 

前回に続き、サービス業の生産性向上のお話です。
前回触れたサービス業の特性のうち、「需要の変動制」と「不可分性」を克服する取り組み例です。

「需要の変動性」
サービス需要が、季節、曜日、時間帯などによって変動する。
よって消費者は、需要のピーク時には混雑やサービス低下を経験する。
サービス提供者は、繁閑に応じてスタッフを増減させるオペレーションを強いられる。

〇定食屋ランチの変動価格制(ダイナミックプライシング)
変動価格制は以前からホテルや航空チケットで採用されていますが、
普通の飲食店でうまく取り入れ、需要変動に対応している例です。
https://www.inshokuten.com/foodist/article/5886/

〇配膳ロボット
最近、様々な飲食店で見かけるようになりました。
IT化によって、労働投入量を減らすわかりやすい例です。
https://www.elmo.co.jp/product/robot/bellabot/

〇急速冷凍機
急速冷凍技術が身近になってきました。
「閑散期に作り置きし、繁忙期の需要に備える」ことを、それほどコストを掛けずに実現できます。
https://www.foods-ch.com/shokuhin/1667357132271/

「需要の変動性」への対応は、需要の繁閑に応じて人を増減させるのではなく、
ITで代替できないか、調整できないか、を検討することがポイントです。

「不可分性」
サービスの提供側と受ける側が同時にいなければならない。
(例:美容師と顧客が揃ってはじめて美容サービスの提供と消費がなされる)
よって消費者は、そのサービスを受けたい場合、遠方であっても通わなければならない。
サービス提供者は、どんなに腕がよくても、一人が顧客一人に対応することになり非効率。

〇オンライン化で距離を克服する
コロナ禍でオンラインがすっかり定着しました。
オンラインセミナー、オンライン見学会、オンライン授業、オンライン婚活など
民間サービスだけでなく、医療や行政サービスでも始まっています。
ポイントは、対面に比べた際のオンラインのデメリットである
「実技・体験が難しい」「単調になる」「臨場感不足」などを克服する工夫を考えることです。

〇一度に提供する対象者を増やす
WEB配信などで1対多のサービス提供を行う。
その際、WEB配信を選択した際のお得感を付けることがポイントです。
先日、サザンオールスターズ45周年の茅ヶ崎ライブが開催されました。
会場の茅ヶ崎公園野球場の約9万人に加えて、全国270の映画館でライブ配信し、
約18万人が視聴、合計約27万人が参加しました。
映画館のライブ配信料金は4800円と会場参加の約半額に設定し、おみやげもつけました。

〇サービスを記録・保存して提供する
ユーチューブで動画を配信したり、セミナーやイベントなどを録画してアーカイブ配信することが、
手軽に容易にできるようになりました。
私も「利益思考力」という商標登録しているセミナーコンテンツを、
オンラインセミナー会社からオファーを頂き、この夏からアーカイブ配信を始めました。
https://shop.deliveru.jp/valueup1?__ac=jEgjABN-Ic1ln

上記の例は、サービス業に限らず、業務に取り入れることは可能です。
あまりお金を掛けないこと、できることからまず始めてみて
効果を見ながら修正していくこと、がポイントです。

Vol.74

2023.10.3 日本のサービス業の生産性の低さ

 

中国の大型連休の国慶節が始まり、インバウンド需要の増加が見込まれます。
日本に訪れたインバウンド顧客からは、サービス品質の高さを評価する声がよく聞かれます。
「OMOTENASHI:おもてなし」は世界共通語にもなりました。

しかし、労働生産性という点では、日本のサービス業は国際比較で極めて低いです。
2017年における日本のサービス業の労働生産性はアメリカの約5割で、
ドイツ、フランス、イギリスなどと比べても、3程度低くなっています。

「労働生産性=付加価値÷労働投入量」なので、労働生産性が低い要因として、
・分子である付加価値が小さい(=サービス料金が安い)
・分母である労働投入量が多い(=過剰労働)
・あるいはその両方 が考えられます

よって、サービス業の労働生産性を上げるには、以下に取り組む必要があります。
・付加価値を付けて分子であるサービス料金を上げる。
・IT活用などによって分母である労働投入量を減らす。

その際に、サービス業の特性を把握しておく必要があります。
マーケティングのテキストではサービス業の特性として以下が挙げられています。

<無形性>
サービス商品は、形がなく、目に見えず、モノと違って実際に触れない。
よって消費者は、購買前にその価値を把握しにくい。
サービス提供者は、価値を可視化する工夫が必要となる。

<品質の非均一性>
サービスは、それを提供する者や提供時間や状況によって品質が変わる。
(例:マッサージであればベテランと新人では施術に差が出る)
よって消費者は、サービス品質の当たり外れを経験する。
サービス提供者は、品質を均一化する工夫が必要となる。

<需要の変動性>
サービス需要が、季節・曜日・時間帯などによって変動する。
よって消費者は、需要のピーク時には混雑やサービス低下を経験する。
サービス提供者は、繁閑に応じてスタッフを増減させるオペレーションを強いられる。

<不可分性>
サービスを提供する側とされる側が同時にいなければならない(生産と消費が切り離せない)。
(例:美容師と顧客が揃ってはじめて美容サービスの提供と消費がなされる)
よって消費者は、そのサービスを受けたい場合、遠方であっても通わなければならない。
サービス提供者は、どんなに腕がよくても一人が顧客一人に対応することになり非効率。

サービス業はこのような特性が指摘されますが、IT活用によってこの特性を回避し、
労働生産性を上げる取り組みが増えてきました。

私も、コンサルタントや研修講師としてサービス業に従事していますが、
労働生産性を上げる工夫をしています。
次回はサービス業の特性を克服する仕組みや事例について案内したいと思います。

Vol.73

2023.9.10 自社の成功事例を展開する

 

新商品・サービスの開発や、新規事業の立ち上げなどにおいて、
他社の成功事例を参考にしてやってみるということがあります。
TTP(徹底的にパクる)という言葉もありますね。

しかし、うまくいかない場合も多いです。
なぜかというと、会社を取り巻く外部環境と社内の状況(内部環境)が成功事例と異なるためです。
例えば、同じ業種の成功事例でも、以下のような点が違っていたりします。

<外部環境>
・顧客特性が違う。
・地域が違う。
・販売チャネルが違う。
・競合との力関係が違う。
・ビジネスモデルが違う。など

<内部環境>
・組織構造や組織風土が違う。
・社員のスキルが違う。
・社員のモチベーションや評価制度が違う。
・会社の規模が違う。
・会社のビジョンが違う。など

他社の成功事例を参考にするのであれば、外部環境や内部環境の違いを理解し、
成果が出るように自社に置き換えて考える必要がありますが、
その作業はそんなに簡単ではありません。

よって、まずマネすべきは、他社よりも自社の成功事例です。
社内なら外部環境や内部環境は同じなので、そのままマネできます。

「当社にはそんな成功事例などない」と言う声が上がるかもしれませんが、
大きな成功事例は必要ありません。

例えば、ある商品の売れ行きが伸び悩んでおり、てこ入れしたいとします。
しかし、伸び悩んでいても、多少は売れているのであればそれを成功事例とします。
数ある商品に中から選んで購入してくれた顧客がいるわけですから、
これは販売が成功した事例と言えます。

ただし、顧客がその商品を購入した事実だけでは成功事例としてマネができません。
その顧客は「どのような要因で購入したのか」がわからないと、マネしようがないためです。

ではどうすればよいか?
例えば、以下のような内容を確認します。

1)購入客はどのような属性の顧客で、何に悩んでいたのか(顧客の属性と課題)
2)どのようにその商品を見つけたのか(商品の認知方法)
3)何が決め手となって、その商品を購入したのか(購買決定要因)
4)実際にその商品を購入してどうだったのか(満足度)

1)から4)までが確認できれば、
1) その商品のターゲット顧客を絞り込むことができます。
2) 今後注力すべき広告やプロモーション方法が理解できます。
3) その商品の強みが明確になり、競合商品との差別化策が立てやすくなります。
4) その商品がもたらす効能を広告でアピールできます。

以上の点は、営業部門でも理解しているとは限りません。
どうすればいいかと言うと、その顧客に聞くのが一番です。

他社の成功事例に着目する前に、自社の成功事例を分析することは、
できているようで、意外と多くの企業でできていません。

Vol.72

2023.9.5 組み合わせによる新サービスの立上げ

 

世の中にない新たな商品やサービスを生み出す活動を「ゼロイチ」と呼びます。

まさに、ゼロから1を創り出すことを意味する言葉ですが、
画期的な商品やサービスは、全く新たな発想で産み出されるよりも、
既存商品・サービスの「組み合わせ」によって産み出されることが多いと言われています。

スティーブ・ジョブズも革新の源泉である創造力について、
「創造力とは、いろいろなものをつなぐ(組み合わせる)力である。
一見、関係ないように見える別分野のアイデアを上手につなぎ合わせる力だ」と言っています。
ジョブズが発明したスマホも、携帯とPCの組み合わせと言えますね。

トヨタ生産方式は「自動車製造」+「スーパーマーケット」の組み合わせです。
トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一氏は、米国視察の際、
日本ではまだ普及していなかったスーパーマーケットたまたま立ち寄りました。
そこでは、顧客が「必要とする品物を、必要な時に、必要なだけ」入手することができます。
これを生産工程に応用しました。

コンビニは「小売店」+「便利サービス」の組み合わせです。
食品や日用雑貨品を扱う小売販売に、コピー機やATM設置による便利サービス、
おでんや肉まん、本格コーヒーなど温かい食べ物・飲み物の持ち帰りサービス、
ひとつひとつは驚くようなサービスではありませんが、
組み合わせが新たな価値につながり、今や生活に欠かせない社会インフラです。

ヤマト運輸のサービスも「大量運送」+「便利サービス」の組み合わせです。
送り側の便利サービスであるクール便、ゴルフ便、スキー便などや、
受け側の便利サービスである配達日指定や受取場所指定などです。

アミューズメント業界の映画でも、組み合わせで大ヒットした例があります。
20年以上経っても、いまだに歴代興行収入4位の「タイタニック」は、
「恋愛映画」+「パニック映画」の組み合わせです。
身分が違うもの同志の恋愛という意味ではロミオとジュリエットの要素があり、
これを沈みゆく大型客船の中で展開することで、3時間の長尺を感じさせない作りになっています。

組み合わせによる成功例は中小企業でもあります。
大阪府門真市の大日運輸は、建設現場へ配送を中心に成長してきた物流会社です。
1990年代に、バブル崩壊後の不況で厳しい価格競争に巻き込まれ、
単に物を運ぶだけでは仕事は先細りすると考え、建材加工サービスを始めました。

外壁工事に用いる建材は、納入先の現場の寸法に合わせて加工を行います。
同社は、様々な切断加工設備を導入して、この加工を引き受け、
配送の前工程として建材加工サービスを行っています。
現在は「物流のコンビニ」をキャッチコピーとして掲げて、
建設現場のニーズに合わせた様々なサービスを展開しています。

どの会社にも、必ず強みがあり、基本サービスがあります。
強みがある既存サービスに何かを別のものを組み合わせたとき、
新たな価値を生み出せる可能性があります。

組み合わせの視点は、「顧客の困りごとの解消」です。
顧客の困りごとにアンテナを張り、それを解消するために、
既存サービスに何かを組み合わせることで貢献できないか?
それは、意外と異業種から学ぶことも多いです。

Vol.71

2023.8.22 中小企業こそ人材に投資を

 

上場企業を対象として、有価証券報告書などにおいて人的資本に関する開示が義務化され、
2023年3月期決算企業から適用されています。

背景としては、日本企業の人材投資の水準が海外企業と比べて著しく低くい点にあります。
日本企業の対GDP比の人材投資の水準はアメリカの20分の1です。
ドイツと比べても12分の1で、1990年代以降、投資金額を毎年減らし続けています。

この人材投資額の低さが労働生産性の低さにつながり、G7で最下位、OECDで23位です。
労働生産性の低さは、失われた30年と称される低成長の原因の1つと言われています。

このような状況を受け、かなり遅きに失した感はありますが、
政府はまず上場企業から人的資本の情報開示を充実させることにしたわけです。
リスキリングと称して、社員の学び直しに注力するのもこうした背景があります。

人的資本経営とは、名前のとおり、人材を資本として投資の対象とし、
人材価値を高めることで企業の評価を持続的に高めていく経営方針を指します。

人的資本の情報開示は、当面、上場企業以外は義務ではありませんが、
私は未上場である中堅・中小企業こそ、人材を資本と位置付けて、
その価値を高めることに注力すべきと考えます。

日頃、中堅・中小企業の経営者と接していて感じますが、
採用難、若手の離職、人材育成の難しさなど、人のことで悩んでいない経営者はいません。

人的資本経営と言うと、何か特別なことのように聞こえるかもしれませんが、
社員がいきいきと働いて、辞めずに着実に成長し、
その社風に魅力を感じて社員の紹介などで人が入ってくる、
そして会社が成長していく。
このようなサイクルを作ることが何よりも重要になります。

そこで、このサイクルにおける「社員の成長」に寄与する仕組みを作りました。

私は「利益思考力®」というワードで商標登録し、ブランド化しています。
「利益思考力®」とは利益を生み出し続けるための創意工夫を行う力です。
社員全員の「利益思考力®」を高めることが、会社の持続的成長につながります。

「利益思考力®」研修は、基本編、競争戦略編、管理職編、商品開発編で構成されますが、
これを動画で学べる講座を登録しました。
https://shop.deliveru.jp/valueup1?__ac=jEgjABN-Ic1ln

中小企業の人材育成の難しさとして、
・社内に教える人材がいない。
・社内勉強会をやりたいが準備や実施の時間が取れない。
・人が業務に固定化されていて、研修のために業務を離れることができない。

以上のような点が挙げられますが、「利益思考力®」研修は動画なので、
空いている時間に、いつでも、少しずつ学ぶことができます。

人的資本としての人材の価値を高めることに少しでも寄与できれば幸いです。

Vol.70

2023.8.2 仕組みを社内に定着させるには

前回は「仕組み化」について考えました。
強い会社とは「仕組み」があり、新たな「仕組み」を作れる会社だと思いますが、
「仕組み」を作っても元に戻ってしまい、なかなか社内に定着しない会社も多いです。

これを防ぐにはどうすればいいでしょうか。
ポイントは2つあります。

1. 決めた「仕組み」を言語化する。
2. 「仕組み」の目的が社員に腹落ちする内容になっているかをよく考える。

1つ目の言語化とは「言葉で表現すること。感覚的なものを言葉で説明し、伝達可能にすること」です。
辞書的な意味の言語化とは、相手にわかるように言語で表現することです。
言語化されていない仕組みは「ないもの」と同じなので、
朝礼などで新たな仕組みの話をしても、その後、徐々にルーズになり、いつか忘れてしまいます。

社会において言語化されていない法律はないのと同じです。
法律は成立後、官報に掲載されます。
その後、紙の媒体である法令集(六法全書)や、インターネットでも法令索引できます。

このように、決めたことを「言語化する」ことは必須ですが、 問題はどこに記載するかです。
一番いいのは、経営計画書です。
経営計画書には会社の1年の取組みを記載しますが、その中に行動指針として盛り込みます。
そして朝礼などで、繰り返し読み合わせをすれば、定着に効果があります。

2つめですが、定着しなかったということは、
仕組みの目的や意義が社員にしっかり伝わっていなかったと言えます。

仕組み化とは「それをやらないよりやる方がメリットがある」という状態が実現することです。
例えば「健康のために1日に摂取するカロリーを制限する」を例にとると、目的は健康維持です。
そのために、ごはんの量を少なくしたり、甘いものを我慢したり、お酒を控えたりします。

カロリーを制限することはストレスも溜まりますが、「健康維持のためにはしかたない」
という目的が自分の中で腹落ちしていれば、続けることができます。

社内の仕組みを作ったけども、すぐに形骸化してしまった。
ルールを決めたけど、なかなか守らない。
と言った場合は、その仕組みの目的がうまく伝わらず、
仕事を面倒にする側面の方に焦点が当たっている場合が多いです。

そして、このような仕組みの背景には、往々にして、社長が社員をコントロールしたいという思惑があります。

このような背景の仕組みはなかなか定着しませんので、
仕組み化の目的である「会社の持続的成長のため」「顧客満足度の向上のため」「法令順守のため」など、
「何のための仕組み」なのか、
そして、面倒な面もあるが、やらないとどのようなリスクがあるのかを
社員に腹落ちするように、しっかり説明し、言語化することが重要になります。

Vol.69

2023.7.19 「仕組み化」という強み

コンサルタントとして、日々、多くの会社に接していますが、  強い会社とは「仕組み」がある会社であり、新たな「仕組み」を自発的に作れる会社であると思います。

例えば、「仕組み」がある会社では、
・社員が業務上の問題を発見し、放置するとまずいことを上司に報告します。
・そして、その問題を討議する関係者が集まり、解決策を考えます。
・解決策として「業務改善の仕組み」を作り、組織に定着させます。

「仕組み」がしっかりある会社は「再現性」があります。
つまり、Aさんが対応しても、Bさんが対応しても、
「仕組み」通りにやることで、同じ結果を得ることができます。

「仕組み化」の反対は「属人化」です。
例えば、業務上の問題を、その人のやり方で解決しようとする。
すると、うまくいく人とうまくいかない人が出てしまい、
会社としての品質にバラツキが生じます。

「仕組み」ができていない会社の多くで、社長が現場仕事に張り付いています。
人がなかなか採用できないなどの理由はあるにせよ、
「自分がいなくても会社が回る仕組みが構築できていない」ということになります。

それでは、多くの会社で「仕組み化」が進まない理由はなぜでしょうか?
いくつか理由がありますが、大きなポイントとして、
「緊急ではないが重要な仕組みづくりに時間を割いていないため」と考えます。

・毎日顧客からメールや電話で問い合わせが入ってきます。
・急ぎの見積対応や業者の手配もしなければなりません。
・現場や顧客先でトラブルが発生し、火消しに追われます。

このような緊急事項だけの対応で、日々業務を回していると、
日常の中で、「仕組み」を考える時間が確保できません。
時間が確保できないので、結果的に「仕組みづくり」が進みません。

よって、日々の業務の中で、以下のようなルールを定めて、
継続的に実行していく必要があります。
・日常業務で気づいた問題点を、社員が自発的に声を上げ、見える化する
・収集された問題点を定期会議の場などで解決策を考える
・解決策を組織の中で確実に実行する
・問題点に気づいた人や解決策を立案した人を表彰などで処遇する など

社員からの自発的な問題点の指摘や提案がなければ、
自分のやり方で業務を回す「属人化」された組織になりがちで、
社長はいつまでも現場に縛られてしまいます。

社長は何としても「仕組みづくり」を会社に根付かせる必要があります。
社員全員が「仕組みづくり」の発想で仕事をすれば、会社の強みになります。

この強みがあれば、社長があれこれ指示しなくても動く「自走式組織」になります。

Vol.68

2023.6.20 重点顧客との取引を拡大する

 

前回は、法人向けビジネスにおいて、顧客に提供する価値を高めるためには、

コスト効果などの「経済的価値」を意識することの重要性についてご説明しました。

今回も法人向けビジネス(BtoB)についてです。

法人向けビジネスの企業は大きく2つのタイプに分かれます。
1)商談単価が高く、クロスセル(注)で様々な関連商品を上乗せできる企業
2)商談単価が低く、クロスセル商材が少ない企業
注)メイン商品に加えて、他の商品を併せて購入してもらうこと。

2)の場合は、1社1社を深堀りするよりも、デジタルマーケティングなどをうまく活用し、
効率的に多くの引き合いを獲得する「プル型営業体制」の構築が有効です。

なぜなら、商談単価が低いので、いわゆる20:80の法則(上位2割の顧客が、
会社全体の売上の8割を占めるというパレートの法則)が当てはまらず、
効率的に多くの顧客と取引しなければ、全社の売上を拡大できないためです。

一方、1)のタイプは、20:80の法則が当てはまります。
この場合は1社1社をしっかり狙って、個社を深堀りしていく重点顧客戦略が有効です。

重点顧客とは、自社の売上・利益目標を達成するために重要となる顧客のことです。
重点顧客を戦略的に攻略する取り組みは、営業レベルでは意識していても、
組織的に実施している企業はそれほど多くはありません。

重点顧客戦略の進め方は以下の通りです。
1.対象市場を絞り込む
2.対象市場の中で、優先的に攻略すべき重点顧客を抽出する
3.重点顧客攻略のPDCAを回す

特に3つめが重要です。
「情報なくして戦略なし」と言われますが、
「売りながら調べ、調べながら売る」必要があります。
組織、キーマン、購買意思決定ルール、競合との取引状況、経営課題・業務課題などの情報を、
競合他社よりも、正確に迅速につかまないと、攻略が進みません。

・情報を収集して課題の仮説を立て、
・自社商品による課題解決方法を提案し、
・事実を確認することで仮説のずれを修正し、
・提案の精度を高めていく。

「商談単価が高く、クロスセルで様々な関連商品を上乗せできる企業」の経営幹部や、
営業管理職、営業マンの方にとって重要となります。

Vol.67

2023.6.6 BtoBビジネスで重要となる経済的価値

 

前回までの続きになりますが、顧客に提供する価値は、次の3つから構成されます。
1)機能的価値
2)感情的価値
3)経済的価値


今回は3つめのBtoBビジネスで重要となる「経済的価値」についてです。
BtoBにおける購買決定要因は基本的に課題解決となるため、
最終的にはコスト効果が非常に重要となります。

この価値は2つに分けられ、ひとつは顧客の「利益を増やす」価値、
もう一つは顧客の「コストを下げる」価値です。

まず、顧客の「利益を増やす」価値提案です。
例えば、顧客の製品に組み込むと価値が上がるキーパーツなどを扱っている場合で、
「当社のパーツを貴社の製品Aに組み込むと、性能がアップして従来よりも単価アップが実現します」
「当社パーツは〇円ですが、貴社の増益分を考えると充分ペイします」のようなイメージです。

この提案のポイントは、顧客の製品Aの市場をよく調査し、
増益のシミュレーションを示すことができるかどうかです。
示すことができれば、より説得力が増します。

次に、顧客の「コストを下げる」価値提案です。
例えば、野菜の皮むきを人手で行っている外食チェーン店に、自動皮むき機を提案する場合、
どのように経済的価値を訴求すればいいでしょうか?

それには、設備の「導入前」と「導入後」のコスト比較を詳細に行うことが必要です。
導入前のコストは、「何人で何時間かけて皮むきしているか」「人件費はいくらか」を調べれば試算できます。

それに対して、設備導入後の人件費(機械に野菜をセットしたり、操作する)を調べて、
導入前と導入後を比べれば、直接人件費のコスト効果が比較でき、経済的価値を試算できます。

しかし、これで充分と言えるでしょうか?

もしかしたら、人がなかなか採用できずに、採用コストがかかっているかもしれません。
また、採用後、ムダなく皮むきできようになるまでの教育コストがかかっているかもしれません。
人のシフト調整に手間がかかり、システムを導入しているかもしれません。
包丁やユニフォームなど備品代もばかにならないかもしれません。

以上のようなことは調べなければわかりません。
大したコストでないかもしれないし、大きなコストがかかっていることもあります。

無視できないコストがかかっている場合は、これも導入前のコストに加えることで、
導入前と導入後の比較による経済的価値がより大きくなります。

以上のように、経済的価値を訴求するためには、「利益を増やす」提案にしても、
「コストを下げる」提案にしても、対象となる顧客業務の詳細な分析が必須です。

Vol.66

2023.5.23 BtoCビジネスで重要となる感情的価値

 

前回の続きになりますが、顧客に提供する価値は、次の3つから構成されます。
1)機能的価値
2)感情的価値
3)経済的価値
1の機能的価値だけで勝負しようとすると、差別化が難しく、
また、価格競争に巻き込まれやすくなります。

今回は2つめの感情的価値についてです。
これは、法人向けではなく、消費者向けの製品・サービスを扱っている企業において重要です。
どのような価値かというと、文字通り「感情を揺さぶる価値」です。

身近な例を挙げると、地元の栽培者が作った野菜を置いているスーパーがあります。

そこには、顔写真が載った地元の〇〇さんのPOPがついており、
「私はこんな思いでこのほうれん草を作りました」
「こだわりの栽培方法は・・・、無農薬で・・・」など書いてあります。
〇〇さんのほうれん草にかける思いとか、
手間ひまかけて栽培した野菜を地元の人に食べて欲しいという思いが伝わります。

それを読んで、
「そうか地元の〇〇さんという人がこんな思いで作っているのか」
「応援してあげたいな」
「少し高いけど買ってみようか」
と、そのほうれん草に手が伸びたのであれば、感情的価値を感じたということになります。

また、パソコンであればMACPCを持つ人の多くは感情的価値で購買しています。
画面サイズ、メモリーの大きさ、HD容量などの機能的価値だけでは選んでいないはすです。
例えば、
・洗練されたデザインがいい
・何よりスティーブ・ジョブズが好き
・持っているとかっこいい などです。

このように製品・サービスに感情的価値を盛り込むことで、
・価格競争を回避できる
・熱烈な応援者が集まりやすくなり、口コミが期待できる
などの効果があります。

それには、以下のような要素が必要です。
まず、自分はどのような思いでその製品・サービスに取り組んでいるか、
という理念をしっかり持ち、製品・サービスの開発ストーリーを明確にします。

そして、それを自己開示します。
製品やサービスに人柄が滲み出ていると、そこに共感する消費者もいることでしょう。

次回は、法人向けビジネスで重要となる「経済的価値」について解説します。

Vol.65

2023.5.9 顧客に提供する価値の高め方

 

今回は、顧客に提供する価値とそれにふさわしい価格について考えてみます。

顧客に提供する価値は3つから構成されます。
1)機能的価値
2)感情的価値
3)経済的価値

1の機能的価値は、商品やサービスそのものの機能や性能面の価値です。
乗用車なら、排気量の大きさ、操作性、静粛性、燃費などです。

今の時代は、機能的価値でうまく差別化ができたとしても、競合他社が同質的商品で追随し、
同様あるいは自社を上回る性能の商品やサービスが世の中に出回ってしまうことも多く、
機能的価値のみで差別化し続けることが困難になっています。

かつて高付加価値の商品が、競争によって価値が低下してしまうことをコモディティ化といいます。
機能的価値だけで勝負していると、その市場がコモディティ化してしまい、
最終的には価格競争に陥ってしまいます。

また機能的価値にフォーカスしてしまうと、顧客にとって意味のない機能まで盛り込んでしまう
オーバースペック(過剰性能)に陥り、顧客の支持が得られにくくなります。
かつての家電などでよく見られた現象です。

そこで最近では、むしろ余計な機能を削ることで差別化を図る商品も増えています。
代表的な会社は、後発で家電市場に参入したにも関わらず、ヒット商品を連発している
アイリスオーヤマです。
機能を抑えて、お手頃価格を実現するシンプル家電が人気です。

機能を削って新たな価値を提供した商品の代表例は、ソニーのウォークマンですね。
「録音してそれを聴く」というのが常識だったテープレコーダーを、録音機能を削って大幅に小型化し、
「いつでもどこでも音楽を聴ける」という新たな価値を提供しました。

最近では、ドンキホーテの動画専用テレビがヒットしました。
これは地上波やBSのチューナー機能を削ったインターネット専用テレビです。
通常のテレビと比べ、50インチで5~6万円程度とかなり安く、
なによりNHKの受信契約が不要なことが人気です。

以上のように、「機能的価値」で差別化を図るには注意や創意工夫が必要で、
顧客は、必ずその商品がもたらす価値とその価格を注視しています。

機能的価値だけでは、この価値を包含した顧客提供価値全体を大きくすることは困難なため、
BtoC商品では「感情的価値」が、BtoB商品でが「経済的価値」が重要になります。

Vol.64

2023.4.18 大谷選手の心を動かした提案書

 

WBCが終わっても、連日のように大谷選手の活躍が報道されています。
ご存じの方も多いと思いますが、現在の彼の活躍の起点となった一つの資料が存在します。

大谷選手は高校のころからメジャー志向で、卒業後のチャレンジを決意していましたが、
日本ハムはドラフトで1位指名を強行しました。

MLB行きを決意していた大谷選手は、当初、球団との交渉を拒否していましたが、
一度も話も聞かないで断るのは失礼とのことで、話を聞くことにしました。
そこで提示されたのが「大谷翔平君 夢への道しるべ」という提案資料です。

この提案書が優れもので、今、改めて見返してみるとすごいと思うばかりです。
提案書を通じて一貫しているのは、日本ハムの「売り込み」は出てきません。

提案書では、まず、大谷選手の夢(目標)をしっかり定義します。
夢は、単に「アメリカで野球をやりたい」のではなく、「MLBトップの実力をつけたい」、
「トップとして長く活躍したい」、「パイオニアになりたい」としています。

そして、高卒後にそのままMLBに挑戦する場合と、
一度NPB(日本プロ野球)を経験してからMLBに挑戦する場合で、
最終的に、MLBで長く活躍する確率にどのような違いが生じるかを、
「事実」と「解釈」を交え、非常にロジカルに説明しています。

例えば事実としては、
NPBは、選手をしっかり育成して一軍に引き上げる仕組みがあることに対し、
MLBは、育成よりは、集まってきた優秀な選手をふるいにかけて淘汰する仕組みであること。
また、野球の実力を向上させながら、海外生活に慣れなければならないリスクなど。

大谷選手の夢の確認から入り(目標の定義)、野球とその他の競技の現状(事実)、
日本人の活躍のパターンの確認(事実)、そして野球の場合はこうだ(解釈)、という構成です。

日本球界の優位性である「育成力」を、様々な事実に基づいてアピールすることで、
日本ハムに入団するメリットではなく、日本でキャリアを始めるメリットを説いています。
日本でキャリアを始めるメリットが伝われば、一位指名の日本ハムを選択するしかないので、
この論理展開は理に適っています。

この提案書は、手作り感が満載ですが、決して論理だけでなく、
一人の若者の夢を支援したいという作り手の情熱や思いがこもっています。
チャットGPTではまだ難しいですね。

私も以前から営業研修の講師をする際に、この提案書を題材として使うことがありますが、
ビジネスでも、このエッセンスは使えます。

まず、顧客の目標を定義し、その目標を達成するための選択肢を示す(例えば自社製品と競合製品)、
それぞれの選択肢の顧客にとってのメリット・デメリットを「事実」に基づいて示し、
自社製品を活用した方が顧客の目標達成に寄与する確率が高い、という構成です。

Vol.63

2023.4.4 WBCにおける栗山監督のリーダーシップ

 

日本中が盛り上がったWBCが終わって2週間経ちますが、いまだにニュースなどでWBC関連の話題が取り上げられています。中でも目につくのが栗山監督のリーダーシップに関するものです。

栗山監督が選手の自主性を尊重し、細かく指示命令したりせず、優勝という目標に向かって、選手の自覚と主体的な行動を促していったリーダーシップが賞賛されています。

決勝でダルビッシュや大谷が自ら登板を志願するまで待ったのも、主体的な行動を促した結果です。準々決勝まで苦しんでいた村上に対しても、打順をひとつ下げたものの打席に立たせ、任せました。

様々な番組で、このようなリーダーシップは、スポーツ界でこれから主流になるかもしれない
とコメントしている人がかなりいました。

私は、このコメントを聞いていて、少し違和感を覚えました。
理由は、求められるリーダーシップ像は、状況によって異なるためです。
これは、SL理論という古典的なリーダーシップ論で説明できます。

簡単に言うと、管理者が取るべきリーダーシップは部下の成熟度で異なるという考え方で、
次の4つに分かれます。

1)指導型リーダーシップ
2)説得(コーチ)型リーダーシップ
3)参加(カウンセリング)型リーダーシップ
4)委任型リーダーシップ

1)の指導型リーダーシップは、仕事の成熟度が低い部下に対する場合です。
部下の成熟度が低いので、仕事のしかたなど、具体的に指示して行動を促す必要があります。

2)の説得型リーダーシップは、徐々に部下の成熟度が高まってきた場合です。
部下の成熟度は、まだ未成熟ではあるものの、少し高まってきたため、
質問や疑問に対してこちらの考えを説明し、疑問に応えます。

3)の参加型リーダーシップは、部下の成熟度が高ってきたため、
自立性を促すために時には激励したり、部下の考えを聞いて環境を整備したりします。

4)の委任型リーダーシップは、部下が完全に自立性を高めてきた場合で、
権限や責任を委譲し、自らの関与を最小限に留めるリーダーシップです。

4は今回の日本代表のように、高度な技術を持つ、成熟した集団において有効です。
選ばれた選手たちは、技術的にも精神的にも、成熟度が極めて高い各球団を代表する一流選手です。このような選手たちは、自ら考え、目標に向かって自分の役割を自覚する主体性が高いので、監督は権限を移譲することができます。

同じようなリーダーシップを、例えば、万年下位に位置するような成熟度の低い球団で採用しても、うまく機能しないでしょう。

管理・監督者は、自分の得意なリーダーシップの型があるので、部下の成熟度に合わせて
柔軟に対応を変えることは、そんなに簡単なことではありません。

しかし、チームや企業の目標を達成し、より高い成果を挙げるためには重要になります。

Vol.62

2023.3.22 経営革新等支援機関の活用方法

 

最近問い合わせが増えている経営革新等支援機関についてご紹介します。

経営革新等支援機関(認定支援機関)とは、全国に約4万件あり、
中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にある者として、
国の認定を受けた支援機関(税理士、税理士法人、公認会計士、中小企業診断士等)です。

具体的には、以下のような課題解決のサポートを行います。
・経営相談から、財務状況、財務内容、経営状況に関する調査・分析
・事業計画の策定・実行支援から、進捗状況の管理・フォローアップ
・認定支援機関のネットワークを活用した取引先開拓や販路拡大サポート
・金融機関との良好な関係作り

弊社(合同会社バリューアップ)も経営革新等支援機関に登録していますが、
特に以下のような支援依頼が最近増えています。

1.経営者保証(個人保証)の解除や追加融資のための「早期経営改善計画」の策定支援

「早期経営改善計画」を策定することで、金融機関との経営者保証解除の交渉が円滑になります。また、財務内容が悪化していると、金融機関は追加融資に応じてくれにくくなりますが、
この状況を打開するには「早期経営改善計画」の策定が有効です。

経営革新等支援機関を活用して「早期経営改善計画」を策定する場合、必要費用の2/3を国が負担します。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/04.html

2.既存融資のリスケをしたい

金融機関への返済が苦しく金融機関にリスケを依頼したいときは、「経営改善計画」の策定が必須です。経営革新等支援機関を活用して「経営改善計画」を策定する場合、必要費用の2/3を国が負担します。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/05.html

3.「資本とみなされる融資」で経営基盤を強化したい

資本とみなしてもらえる「新型コロナ対策資本性劣後ローン」利用には、民間金融機関からの協調融資が必要です。経営革新等支援機関の指導で事業計画書を策定すれば、「民間金融機関からの協調融資」ができない場合でも対応可能となります。
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/shihonseiretsugo_t.html

4,設備投資の際の固定資産税を節税したい

「先端設備等導入計画」を策定すると、新規に取得した設備に関する固定資産税が、3年間にわたり、ゼロから1/2に軽減されます(ほとんどの自治体がゼロ)。その際、経営革新等支援機関が発行する確認書が必要になります。
https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/chushokigyo/setsubi_donyu/setsubi_donyukeikaku.html

以上のように、経営革新等支援機関を使えば、非常にお得に資金繰り等が改善できます。
皆さまのまわりの経営革新等支援機関をうまくご活用ください。

Vol.61

2023.3.8 市場分析の2つの軸

 

BtoBビジネスにおいては、多くの企業で「売上の8割は主要な2割の顧客でもたらされる」ことが当てはまります。

よって、主要な2割に営業リソースを注力することで、生産性向上が期待できます。
問題は注力すべき顧客をどのように分析するかですが、
その前に、顧客を包含している市場の分析をする必要があります。

その際、「市場ニーズの種別」「自社の優位性」の2軸で考えることが有効です。

「市場ニーズの種別」は市場におけるニーズが顕在化しているか潜在的なものかの違いです。
・顕在ニーズは、顧客自身が欲しい商品やサービスを自覚している状態です。
・潜在ニーズとは、何かしら欲求はあるものの、顧客に明確な自覚がない状態です。

「自社の優位性」は、競合に比べて有利な状況になる状態の存在です。
例えば、低コストで生産できるノウハウや希少資源の調達ルートの保有など、
他社には真似できないものがあれば、競争優位性になります。

この2軸で市場をセグメントすると、以下の4つに分けられます。

・「市場ニーズが顕在化」「自社の優位性高い」→ 優先市場
・「市場ニーズが顕在化」「自社の優位性低い」→ 消耗市場
・「市場ニーズが潜在的」「自社の優位性高い」→ 育成市場
・「市場ニーズが潜在的」「自社の優位性低い」→ 回避市場

1.優先市場
市場ニーズが明確で、競合に比べて自社の優位性が高い市場なので優先的に取り組むべきです。

2.消耗市場
市場ニーズは明確ですが、自社の優位性が低い市場なので、価格競争に陥る可能性大です。
参入するのであれば、新たな競争軸を設定する必要があります。

3.育成市場
顧客がニーズに気づいておらず、潜在ニーズが潜んでいる可能性がある市場です。
自社の優位性が高いので、市場をうまく育成(啓蒙)できれば市場獲得の可能性があります。
育成コストがかかるため、優先市場を攻略しつつ、じっくりと攻略する必要があります。

4.回避市場
顧客ニーズが潜在的で、自社の優位性も低いので、文字通り回避すべき市場です。

以上のようにセグメンテーションを行い、優先市場を抽出した上で、
その市場の中で、組織として重点的に攻める顧客を選定します。

Vol.60

2023.2.21 パレートの法則でインバウンド拡大を考える

 

「パレートの法則」は有名なのでご存じの方も多いと思います。
経済学者のパレートが提唱した法則で、「全体の8割は主要な2割の要素で構成される」というものです。

例えば、
「BtoBビジネスでは、売上の8割は主要な2割の顧客でもたらされる」
「よく着る服の8割は、所有している服の中の2割」
「交通事故の8割は、2割のドライバーが繰り返し起こしている」 などです。

先日、テレビ東京のニュース番組で、現在、急回復しているインバウンドを取り上げていました。番組の訪日外国人のグラフを見て、「インバウンド顧客の8割は2割の国が占めている」ことに気づきました。

コロナ前の2019年の訪日客数は約3000万人ですが、上位から見ると、
1位中国959万人、2位韓国558万人、3位台湾489万人、4位香港229万人、
5位米国172万人、6位タイ132万人です。
ここまでで累積2539万人で、合計3000万人の約85%です。
この上位6か国で主要訪問国の20%弱なので、パレートの法則が当てはまっています。

政府は2025年にコロナ前の水準の3000万人、2030年に6000万人を目指しています。それについて、番組中、某アナリストが興味深い指摘をしていました。
目標達成には「その国の何人に1人が日本に来たか」を分析しなければならないというものです。

例えば、2019年、香港は国民の3.2人に1人が日本に来ました。
台湾は4.8人に1人、韓国9人に1人、シンガポール11人に1人、豪州39人に1人、
タイ52人に1人、マレーシア60人に1人、これが上位7カ国です。
ちなみに中国143人に1人、米国187人に1人、インドネシア624人に1人です。

「その国の何人に1人が日本に来たか」を分析することで、今後、訪日客数を増やすために、
プロモーションを強化すべき国が見えてきます。

香港、台湾、韓国は、10人に1人を切っているので、これ以上大幅に増やすことは難しいです。しかし、中国は現在143人に1人なので、現在の倍で、マレーシア並みの72人に1人まで増やせれば、現在の959万人が、倍の1918万人となります。
このように、中国だけで約1000万人伸ばすことは不可能ではありません。

また、インドネシアは41万人の来日実績ですが、624人に1人しか来ていないので、
日本からの距離が同じような、タイ(52人に1人)やマレーシア(60人に1人)並みになれば、10倍の400万人ぐらいに伸ばせる可能性があります。

このような分析によって、限られたプロモーション費用の有効活用が可能になります。

生産性向上のため、パレートの法則に基づいてリソースの重点配分を考えることは重要で、
BtoBビジネスも同様です。
前述の通り、多くの企業で「売上の8割は主要な2割の顧客でもたらされる」ことが当てはまります。

このような売上形態の場合は「重点顧客戦略」が有効です。
重点顧客の選定基準を明確にし(先ほどの中国やインドネシアのように)、販売ポテンシャルの高い重点顧客に営業リソースを集中させます。

営業マンは、ともすれば訪問しやすい顧客を優先してしまう傾向があるため、

基準を決めて重点顧客を選定し、組織的に攻略を進める必要があります。

Vol.59

2023.2.8 WBCで考える戦略と戦術

 

野球世界一を決めるWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が、コロナ禍を経て、6年ぶりに3月から開催されます。栗山監督率いる侍ジャパンは、どのような「戦略」で世界一を目指すのでしょうか?

このような時に「戦略」という言葉がよく使われます。
一方、似た言葉で「戦術」という言葉もあります。
この2つの違いに関して明確な定義はありませんが、私の解釈は以下の通りです。

・戦略=「目的達成のために資源を最適配分し、勝つためのシナリオを作ること」
・戦術=「現場で資源を運用し、戦略を効果的・効率的に実践すること」
つまり、戦略の方が上位の位置づけですね。

WBCで考えると、「戦略」は、目的である世界一を目指し、今回選出した30人をいかに使い、優勝するための一試合ごとの試合運びのシナリオを描くことです。栗山監督は今回の「戦略」を明示していませんが、インタビューなどで以下のように言っています。

「選手選考の第一義は、侍の魂を持っているかどうか」
「日本の野球の質の高さ、緻密さは世界一だと示したい」
「30人の気持ちを一致させ、全員にバントやエンドランの練習を課すつもり」
「本番ではいろいろなことが起こる。どんな状況でも結果を出すため複数ポジションこなせる選手は重要」「基本的には投手中心に守り切って、我慢して勝ちきっていく。ならば、投手交代のところで足りなくなることだけは許せないので、投手を15人選んだ」

以上のことからすると、以下のような「戦略」が浮き彫りになります。
・急増チームでは簡単ではないサインプレーも時には使い、緻密な野球を行う。
・スター選手といえども状況によってはバントもさせるなど、フォア・ザ・チームに徹した戦い方。
・守りを固め、一点を争う試合を勝ち切る戦い方。

一方「戦術」は、勝利を目指して、試合の局面ごと状況ごとに選手を使い分け、作戦を実行することです。つまり、「戦術」は「戦略」実行の手段です。
目的達成にために何をやるのかが「戦略」で、どのようにやるのかが「戦術」になります。

今回の投手の顔ぶれを見渡すと、明確な「抑え」が見当たりません。
よって「戦術」のポイントの一つは、試合の局面ごとに、だれに抑えを任せるかになります。
先発投手はもちろん重要ですが、勝てる試合を勝ち切るには、抑え投手がカギです。

「戦術」に着目しながら、WBCでの戦い方を楽しみたいと思います。

Vol.58

2023.1.24 コロナ融資の借換保証について

今回はコロナ融資のお話です。

コロナウイルスの影響で売上が減少し、資金繰りが苦しくなった企業の多くが、
実質無利子・無担保で融資する、いわゆる「ゼロゼロ融資」で資金を調達しました。

そのおかげで当面の資金繰りは改善されたものの、その後の急激なインフレ、金利上昇、
物価高、ウクライナ紛争等による物流の影響など、企業経営を取り巻く状況は以前よりも
厳しさを増しています。

このような中でコロナ融資の返済を開始するのは大きな負担となるため、中小企業庁は1月10日から「ゼロゼロ融資」の返済負担を軽減する「コロナ借換保証」を開始しました。

ゼロゼロ融資は2020年3月から始まり、据置期間(返済猶予期間)は最大5年ですが、
2023年7月から2024年4月に返済開始が集中すると見込まれています。

これだけの規模の融資の返済が本格化すると、多くの事業者の資金繰りが悪化する恐れがあるため、そのような事業者を支援するためにコロナ借換保証が創設されました。

売上が回復しないままにコロナ融資の返済が始まると、キャッシュフローが厳しくなります。
コロナ融資の返済に悩んでいた事業者にとっては、この制度の活用は有効です。

通常の融資では、リスケしか返済額を減らす方法がありませんでしたが、この制度を利用することで、コロナ融資を借りた金融機関から、同額の融資を再度行ってもらい、その資金で以前の融資の返済を行い、新たに借りた融資の返済猶予期間を延ばすことができます。

リスケすると事業者の信用格付けが下がり、金融機関はその後の新規融資に応じてくれなくなります。よって、まずはこの借換制度を検討すべきで、リスケはその次の手段です。

コロナ借換保証を利用できるのは、売上または利益が5%以上減少している事業者です。

保証限度額は1億円で、保証期間は10年以内、据置期間は5年以内です。
金利は、実際に融資をすることになる金融機関の所定のものが採用されます。

保証料は、通常は0.85%程度ですが、これを0.2%程度に設定します。
保証料とは信用保証協会の信用保証制度を利用する対価のことです。

コロナ借換保証の詳しい制度内容と手続きに流れはこちらです。
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/sinyouhosyou/karikae.html

コロナ借換保証は、経営者の資金繰りの悩みを減らすことができますが、
「経営行動計画書の作成」が必要となるなど、申し込みは簡単ではありません。

コロナ借換保証の利用をご検討の際は、経営革新等認定支援機関である当社にご相談ください。

Vol.57

2023.1.11 「利益思考力」を商標登録しました

 

2022年末に特許庁へ出願していた「利益思考力」の商標審査が通りました。登録が終わると、当社以外は「利益思考力」を冠したセミナーや商品販売を実施できなくなります。

2年前の出版をきっかけにして、「利益思考力」というワードをつけた公開セミナーや企業研修を積極的に行っていますが、改めて「利益思考力」とはどんな力を指すのか、ご紹介したいと思います。

2つの要素があり、ひとつめは、「顧客の利益と自社の利益を両立させる力」です。

BtoCのビジネスでも、BtoBでも、自社だけ儲けようと思ってもうまくいきません。
どんなビジネスでも競合はありますし、仮に一見さんの顧客をうまく説得して契約に至っても、
品質や中身が伴わなければリピート注文は来ません。

また、顧客の利益を優先しようとして自社の利益を削っていると、長続きしませんし、
なにより、新たなサービスや製品開発のための原資を確保することができません。

最近のマーケティング用語で言うと、「カスタマーサクセス」という考え方が近いです。

これは、自社の製品やサービスを顧客に利用してもらうことで顧客を成長や成功に導き、
それを自社の利益につなげるというマーケティングの考え方です。

つまり「顧客の成功に貢献する」ことで「自社の利益を得る」ということですね。
そして、それを競合よりもうまく行う、違うやり方で行う。
そうすれば、そのやり方を評価してくれる顧客から選ばれる可能性が高まります。

これを実現するためにベースとなる力が「利益思考力」です。

「顧客の成功に貢献して自社の利益を得る」ためには、利益が生まれるメカニズムを理解し、顧客のビジネスを理解し、競合と違う方法で、顧客に提供する価値を高めなければなりません。

このことを各部門(営業、製品開発、スタッフなど)の担当者が、自分の職務を通じて実践する。経営幹部は、戦略を立てて、社内をリードする。

もうひとつは、「利益=売上―コスト」という構造を意識し、「無駄を最小化する力」です。

製造部門であれば、製造原価の最小化は大きなテーマです。
例えば、不良品が出れば、材料費だけでなく、不良品に関わった作業者の労務費や不良品を製造した設備の減価償却費もムダになります。また、作業中の様々なムダ(動作のムダ、手待ちのムダ、作りすぎのムダなど)も、労務費に悪影響を及ぼします。

営業であれば、「アプローチ→見込発掘→商談→提案→受注→納品→アフターサポート」の
どこに改善の余地があるのか、どのプロセスの通過率(次のプロセスに進む確率)を上げれば受注数が増えるのか、IT化の余地はどこにあるのか、などを追及します。

「無駄を最小化する」力を磨いて、継続して取り組むことは、自社のためだけでなく顧客の無駄にも気づきやすくなります。「顧客の成功に貢献する」上で、このことは非常に重要です。

「利益思考力」のコンテンツに賛同して、扱ってくれるセミナー会社、研修会社が増えてきました。今回の商標登録をきっかけに、「利益思考力」というワードを世の中に広めていきたいと考えています。

Vol.56

2022.12.21 顧客の利便性から見た差別化ポイント

 

顧客の利便性の視点で差別化を図る方法として、顧客が感じる利便性を「品質」「手軽」「密着」の3つの軸に分けて、差別化を設定する考え方があります。

まず「品質軸」は、高品質や最新機能で差別化することです。「よいものなら多少高くてもよい」という顧客をターゲットとし、高品質という価値を提供します。

具体例には、ワンランク上の品揃えのスーパーや高級レストラン、
常に業界をリードする最新機能の機器を開発するメーカーなどです。

品質軸を好む顧客は、価格以外の価値に重きを置いているため価格競争にはなりにくいです。
このタイプの差別化を徹底するには、最新のものを調達する、生産するためのノウハウや研究環境、人材などが必要となります。

「手軽軸」は早い、便利、(安い)で差別化することです。手間暇をかけずに、手軽に注文したいというニーズに応えるもので、ポイントはスピードと利便性です。

早い、便利という価値で顧客を満足させることができれば、安いは必須ではありません。
この軸の例としては、手軽になんでも注文できるアマゾンのようなネット購買などが該当します。

この軸で差別化するためには、早い、便利を安定的に提供するのは人海戦術では難しいため、
サービスを提供するため設備やシステムなどインフラの整備が重要となります。

最後の「密着軸」は、顧客の個別ニーズに応えて差別化することです。「自分向けのサービスをしてほしいが、お仕着せのサービスはいや」という顧客がターゲットです。

例としては、価格や品質よりも、自分の好みをよく知っている店主がいる馴染みの飲み屋などです。この軸で差別化するためには、顧客一人一人に合わせた対応力が必要です。

この3つの軸による差別化の設定は、BtoCでも、BtoBでも当てはまります。
例えば、スーパー(BtoC)であれば、こんな感じです。

品質軸:成城石井(日本、世界から選りすぐられた食品の品揃え)
手軽軸:ネットスーパー(イオン、イトーヨーカドーなどが展開)
密着軸:高齢者のニーズに対応したスーパー(内野ストアー)
https://mirasapo-plus.go.jp/hint/18838/

同じ軸で勝負してくる競合に対しては、前回紹介したマーケティングの4Pの組み合わせ、
すなわち、Product(プロダクト:製品)、Price(プライス:価格)、Place(プレイス:販路)、Promotion(プロモーション:販売促進)で違いを作ります。

今まで多くの企業で差別化支援をしてきましたが、この考え方は汎用性があると実感しています。

Vol.55

2022.12.6 供給側から見た差別化ポイント

 

競争戦略の本質は「いかに戦うか」ではなく、「いかに戦わずにすむようにするか」です。
ガチンコの勝負を常に繰り返していると、常勝というわけにはいきませんし、
勝ったとしても戦力の一部を損ないます。

同じ顧客層に、同じような商品やサービスを展開していると、価格勝負の消耗戦に陥ります。
よって、消耗戦を避けるためには、自社よりも経営資源が勝る企業との真っ向勝負を避け、
「棲み分ける」ための差別化が必要となります。

差別化に決まったやり方はありませんが、「ターゲット+マーケティングの4P」の切り口で、
4Pの組み合わせを考え、棲み分けるやり方があります。
具体的には、「誰に」「何を、どうする」の組み合わせです。

「誰に」はターゲット市場や客層、
「何を、どうする」はマーケティングの4Pの組み合わせです。

まず「誰に」ですが、強者が狙わない客層を狙うことは有効です。
例えば、フィットネス市場でカーブスという中高年女性専門のフィットネスクラブがあります。
フィットネスに通う人は全人口の10%以下で大手フィットネスはそこを取り合っています。

しかし、カーブスは既存のフィットネス市場は狙っていません。
カーブスの特徴は、着替えなし、シャワーなし、買い物帰りに気軽に行けて、安い、です。
既存フィットネス市場の顧客は対象ではないので、大手フィットネスと棲み分けできています。

次に「何を、どうする」です。

まずProduct(製品)ですが、製品やサービスの機能で差別化できれば有効です。
しかし、機能による差別化と言っても、やみくもに機能を増やしても差別化は難しく、
むしろ特徴的な機能に絞り込むことで、差別化に成功している例が多いです。

例えば、バルミューダやアイリスオーヤマは、後発で激戦市場の家電業界に参入しましたが、
シンプルなこだわりの機能に特化して、大手家電メーカーと差別化し、成功しています。

Price(価格)については、ユニクロ、ニトリのように、
平均以上の機能の製品を、お手軽価格で販売できれば非常に強い差別化となります。

しかし、規模の経済性などを享受しづらい中小企業には採用が難しいので、
絞り込んだターゲットに向けて製品やサービスをしっかり創り、
顧客がこの製品ならここまで払ってもいいという「支払意思金額」を設定するのが王道です。

Place(販路)は、以下の3つのチャネルを意識して差別化を図ります。
・コミュニケーションチャネル(広告や口コミなど商品やサービスを顧客に認知させる経路)
・流通チャネル(店頭渡し、顧客直送、ネットからダウンロード等、商品を顧客に届ける経路)
・販売チャネル(顧客が商品を注文し、決済する経路)

Promotion(販売促進)は、現在ではSNSをいかに活用するかがポイントです。
SNSは、大手に比べて予算や人員が限られている中堅・中小企業にこそ適していると言えますが、実際に活用できている企業は多くありません。しかし、うまく活用できれば、広告費用を抑えた上で、ターゲットを狙った情報配信ができます。

Vol.54

2022.11.22 シンプルでわかりやすい営業提案書

 

カタログで説明するだけで、顧客向けの営業提案書を作らない会社も多いです。
しかし、前回ご紹介したFABEの要素で構成するだけでシンプルな提案書が作成できます。

改めてFABEとは、Feature(特徴)、Advantage(優位性)、Benefit(顧客が得るメリット)、
Evidence(証拠)の頭文字を取った略語です。

営業提案書で使う場合は、以下のような構成になります。
・Feature:提案の概要
・Advantage:提案の優位性
・Benefit:顧客がこの提案で得るメリット
・Evidence:導入実績など提案の裏付け

もう少し具体的に示すと以下のようになります。
ポイントは、説得力を増すためには「Evidence」を2回使うことです。

・Feature「製品Aの特徴は、〇〇機能による××です」
  ※あまりたくさん挙げずに、せいぜい3つ程度に。

・Advantage「製品Aは、他社の製品に比べて〇〇機能が特に優れています」
  ※競合製品との違いがわかるように書く。

・(Advantageに対する)Evidence「〇〇機能に関するデータをご覧ください」
  ※具体的な数字を示すことで納得感が高まる。

・Benefit「製品Aの導入は、お客様に△△のコスト削減メリットをもたらします」
  ※製品導入後、顧客にどんな良いことがあるのか。それはどの程度か。
   数字を使い、顧客の立場に立って、メリットを具体的に示す。

・(Benefitに対する)Evidence「こちらのコスト削減データをご覧ください」
  ※再びEvidenceで裏付けして、自信をもって製品Aを勧める。

FABEはカタログやチラシの構成にも有効です。
多くのカタログ、チラシを見てきましたが、FABEの要素が抜けているものをよく見かけます。

例えば、
・製品の特徴を多く盛り込みすぎて、何が特徴なのかわからない。
・商品の仕様が書いてあるだけで、FABEの要素を網羅していない。
・商品の特徴は書いてあるが、裏付けとなる根拠(Evidence)が書いてない。
・機能の豊富さは書いてあるが、それによって顧客が得るメリットが書いてない。など

FABEの視点で構成することで、今よりも顧客に刺さるカタログ、チラシの作成が可能です。
一度、自社のカタログやチラシをFABEの視点でチェックしてみましょう。

Vol.53

2022.11.8 わかりやすく商品価値を伝える方法

 

自社の製品やサービスを伝えるための1分間トークや、本格的な営業提案書の骨子作りまで、
幅広く使えるフレームワークにFABE(ファブ)があります。

FABEは、Feature、Advantage、Benefit、Evidenceの頭文字4つをとったものです。

FABEの順番に沿って話をすると、相手に対して納得感のある説明ができるようになり、
自社の製品やサービスをシンプルに説明することができます。

FABEは以下の4つの項目で構成されます。

Feature :特徴 (この製品はこのような特徴があります)
Advantage:優位性 (他社の製品に比べてこのような優位性があります)
Benefit:顧客が得るメリット (この製品を使うとこのようなメリットがあります)
Evidence:証拠 (この提案を裏付けるデータや実績として・・・・があります)

私も専門分野の一つである「補助金コンサル」として自己紹介する場合に使っています。

Feature:ランチェスター戦略に基づいた他社と差別化できる申請書策定が特徴です。
Advantage:ランチェスター戦略の理解がないと「差別化、絞り込み、一点集中」の申請書策定は難しいです。
Benefit:不採択を経験した企業の多くを採択に導いています。
Evidence:ものづくり補助金7年間で150社以上の採択支援で通算採択率85%です。

よく聞いていると、テレビショッピングも、FABEの流れに沿って話が展開されています。

例えば、こんなかんじの構成です。

Featureで、製品の機能、サイズ、内容量、素材、成分などを説明。
Advantageで、競合製品に比べた優位性、品質、価格、利便性などを説明。
Benefitで、実際に製品を利用する場面を見せるなど購入して使っているイメージを抱かせる。
Evidenceで、販売実績、売上ランキング、購入したお客様の声などを紹介。

もし、自社の製品やサービスを、うまくFABEに落とし込めない場合は、
・その製品の特徴を言えない、もしくは特徴がない、弱い。
・競合製品に対する優位性を言えない、もしくは優位性がない、弱い。
・顧客が得るメリットを言えない、もしくはメリットがない、弱い。
・製品を自信をもって勧める根拠を言えない、もしくは根拠がない、弱い。

私の支援先で、社内でメイン商品をFABEで分析し、みんなでトークを組み立て、
朝礼でスムーズに言えるようになるまで練習して、営業成果を上げた会社があります。
まだやったことがなければ、ぜひお試しください。
必ず成果につながります。

Vol.52

2022.10.25 顧客価値に基づく値決め

 

「値決め」が経営において、いかに重要かを示した言葉として、
京セラ創業者の稲盛和夫さんの「値決めは経営である」という有名な言葉があります。

この言葉の真意について、稲盛さんの著書から引用します。

「経営の死命を制するのは値決めです。値決めにあたっては、利幅を少なくして大量に売るのか、それとも少量であっても利幅を多く取るのか、その価格決定は無段階でいくらでもあるといえます。どれほどの利幅を取ったときに、どれだけの量が売れるのか、またどれだけの利益が出るのかということを予測するのは非常に難しいことですが、自分の製品の価値を正確に認識した上で、量と利幅との積が極大値になる一点を求めることです。その点はまた、お客様にとっても京セラにとっても、共にハッピーである値でなければなりません。この一点を求めて値決めは熟慮を重ねて行わなければならないのです。」

※「京セラフィロソフィー」 サンマーク出版 稲盛和夫著


製造業であれば、自社製品の「値決め」について、大きく以下の3つの方式があります。

1. 自社製品の製造コストに標準利益を乗せる値決め
2. 競合の価格を参考にした値決め
3.自社製品導入によるコスト削減や利益創出の効果から値決め

多くの企業を見ていると、1と2の方式で値決めをしているケースが多いです。
すなわち、自社製品を作るのに要する原価を積み上げ、そこに一定利益を乗せ、
更に競合の価格を参考にして売値を決めるやり方です。

それに対して3の値決め方法は、以下のような考え方です。

例えば、工場で不良品が一定割合で発生し、課題になっているとします。
不良品 1個で50万円の損失が出て、毎年20個の不良品が発生しているなら、
5年で5千万円の損失となります。

このような課題に対して、自社の検査装置を導入すれば不良品発生が防げるならば、
価格が5千万円でも、5年で投資回収ができて、6年目以降はコスト削減分が利益となるため、
顧客は5千万円払ってもいいと思うでしょう。

仮に、この検査装置の製造コストが1千万円で、1千万円の利益を載せて2千万円で販売すると、3千万円が儲け損ないとなり、本来得られるはずの利益を逃すことになります。

この値決め方法のポイントは、営業が顧客の現状業務や課題を正確にヒアリングし、そして、
「自社製品導入によって顧客が得る価値」を論理的に説明することです。
このやり方で成功している代表的な企業が、営業利益率50%を超えるキーエンスです。

日本の賃金が30年以上も上がらないのは複合的な要因ですが、そのうちの一つは、
自社の製品やサービスの付加価値を価格に転嫁できていない点があります。

Vol.51

2022.10.11 自社は何業なのか?

 

全ての会社は、自社を「○○業」と認識しています。
この、〇〇業という会社の活動領域のことをドメインと呼びます。

ドメインを定義するには、二つの表現方法があります。

一つは「物理的定義」です。
これは、会社が提供している商品の種類や機能による物理的な定義です。

もう一つは、「機能的定義」です。
これは、その会社が「どのような機能で顧客へお役立ちするか」という定義で、
物理的定義しか設定していない会社が多い中、機能的定義を定めることが非常に重要です。

マーケティングの古典的な話です。
かつて、アメリカの鉄道会社は、物理的定義を「鉄道事業」と設定していました。
機能的定義を明確に定めていなかったため、移動手段として自動車や飛行機が普及すると、
市場を奪われてしまいました。

もし、「鉄道事業」という物理的定義のみではなく、
「人々に最適な輸送手段を提供する」という機能的定義を設定していたら、
自動車や飛行機といった代替手段に市場を奪われることはなかっただろう、とされています。

「タニタ食堂」で有名となったタニタは、体重計など計測機器をつくるメーカーです。
あるタイミングで、タニタは機能的定義を「人々の健康作りに貢献する」と設定しました。
その結果できたのが「タニタ食堂」や「タニタのレシピ本」で、映画にもなりました。

タニタ食堂の成功によって知名度が飛躍的に向上し、新規顧客を獲得し、事業の多角化に成功しました。もし機能的定義を再定義せず、物理的定義としての「計測機器メーカー」であり続けたならば、今の姿はなかったでしょう。

印刷業は、その名の通り、顧客にカタログやチラシなどの印刷物を提供します。
顧客はそのカタログやチラシを使って販売促進の活動を行います。

もし、ある印刷業が、当社の機能的定義は「顧客の販売促進の成功を支援する」と定めたならば、「訴求力や提案力のあるカタログ作成のコンサルティングを行う」などの領域にビジネスを広げ、同業他社との差別化が図れるかもしれません。

貴社の機能的定義は何でしょうか?

Vol.50

2022.9.27 会社利益の自分ごと化

 

会社のお金も自分のお金と同じと思えば、確実に経費削減につながります。

しかし、これがなかなか難しいです。

自分の買い物の場合は、あちこちお店を回って、少しでも安いところで買う人も、会社の経費となると、相見積を取らずに、業務に必要だからすぐ買うというようなことがあります。

会社が大きくなればなるほど、会社の経費や利益が、個々の社員の仕事に結びついているという
意識を持ちにくくなります。

そんな社員の意識を、ある工夫をすることで、会社の利益を人ごとではなく、
「自分ごと」に変化させた企業があります。

滋賀県にトップ精工というセラミックなどの素材加工を手掛ける社員100名の会社があります。

同社はリーマンショックで業績が悪化した際、社員の給与を2~3割削減しました。
社長は、今後、このようなことをしなくてもすむ方法はないか、思案をしました。

そして、給与手当の内容を変更することを思いつきました。
・住宅手当(借家でも実家でも支給) 支給額4.3万~7.6万円
・家族手当(家族持ちも独身も支給) 支給額2.5万~5.5万円

ポイントはそれぞれの手当に停止条件と再開条件を付与したことです。
・住宅手当は3カ月連続赤字で停止、3カ月連続黒字で再開
・家族手当は赤字の次年度は停止、黒字になったら再開

そして、毎月の利益状況を社員に開示しました。

すると、社員の意識に変化が生じました。

「先月は赤字だから、これが続くとまずい。手当を減らしたくない」
「自分は利益を稼ぐ一員なんだから頑張ろう」

この意識変化は、各社員の行動に結びつきました。
制度導入後、手当の停止は一度もないそうです。

会社の利益を自分のこととして意識させる仕組みとして、参考になる事例です。

Vol.49

2022.9.13「利益回収速度」を意識する

 

前回は、ビジネスの型として、儲け方は大きく2つに分けられるというお話でした。
すなわち、「利幅」で儲けるか、「回転」で儲けるか、ですね。

今回は「回転」について考えます。
回転がよいほど、限られた資本で売上・利益を作り出していると判断できます。

回転を早めるということは、材料ならば、仕入れたものを使って素早く製品を作り、
すぐに売って、すぐに代金を回収する、ということです。

このサイクルで、現在、年間1000万円のキャッシュを稼いでいたとしたら、
サイクルを半年に短縮できると、2000万円のキャッシュ増が見込めます。

上記は単純な例ですが、「利益回収速度」を意識することは、非常に重要です。

速度を上げるために、現在の仕入~生産~納品~回収の一連の流れの中で、
どこにボトルネックがあって回転が悪いのか。
どうすればボトルネックを解消してスムーズに流れるようになるのか。
などを考える必要があります。

また資産の保有にはコストがかかります。
例えば、在庫であれば、在庫があることによって、在庫金利や保管費用、
また、長期に在庫して価値が下がると、棚卸評価損などがかかります。

売掛金の回収が長引いてしまうと、金融機関から運転資産を借りざるを得なくなり、
支払利息がかかります。
コストの面でも、回転がよいことはメリットがあります。

中小企業は、中堅・大手企業に比べて、人も少なく、お金も少なく、商品力も弱いです。
そんな中で利益を上げるには、資産を早く回転させる「利益回収速度」を意識した経営を目指すべきです。
小回りの良さは中小企業の大きな武器ですね。

最後に、松下幸之助さんの「ダム式経営」の話をご紹介したいと思います。
松下さんは、経営においては、回転を早くして、お金を会社にため(ダムに水をため)、
必要な時にお金を使う(水を放流する)べきであるという話を、講演でしました。

それを聞いていた聴講者が「それはわかるが、実際にはどうすればいいのか」と聞きました。
松下さんは少し考え、まずは、あなたがその姿になりたいと真剣に思うことだと言いました。
具体的な話が聞けると思った多くの人は「思うだけならだれでもできる」と苦笑しました。

ただ一人、「そうか、真剣に思うことが重要か」と素直に納得し、のちに経営に生かして大成功しました。
それが先日お亡くなりになった、京セラ創業者の稲盛さんです。

いかにマインドセットが重要であるか、という逸話です。

Vol.48

2022.9.1「利幅」で儲けるか、「回転」で儲けるか

ビジネスの型として儲け方は大きく2つに分けられます。すなわち、「利幅」で儲けるか、「回転」で儲けるか、です。

商売の収益性は以下の式で表せます。
 総資本経常利益率 = 売上高経常利益率 × 総資本回転率

「売上高経常利益率」が高いビジネスは「利幅」で儲ける型で、
「総資本回転率」が高いビジネスは「回転」で儲ける型ですね。

つまり、回転率を高めるか、あるいは利益率を高めれば、収益性は高まります。

よって、会社の持続的成長のためには、「効率的に経営資源の利用を図る」か、
「価値の高いものを世の中に提供する」か、が必要ということになります。

同じ業種でもこの型は異なります。
例えば、すし屋では、回転寿司は名前の通り「回転」で儲けていますし、
カウンターの寿司店は、それと比較すると「利幅」で儲けています。

住宅販売では、建売住宅は「回転」、注文住宅はそれと比較すると「利幅」。
紳士服販売では、つるしのスーツは「回転」、オーダースーツはそれと比較すると「利幅」。

「利幅」で儲ける型で利益率が悪化、あるいは「回転」で儲ける型で回転率が悪化すると、
自社の「儲け方」が崩れているということになります。

今回は利益率について考えます。

商品やサービスの品質のよさ、顧客に提供している利便性など、
他社とは違う「差別化された価値」が利益率の違いになって現れます。

利益率が高いということは、高くてもその会社から買おうとする顧客がいるということです。
顧客に提供した価値の対価が利益なので、
その会社はそれだけ社会に必要とされ、存在価値があるということになります。

もし、利益率が低下傾向であれば、以下をチェックする必要があります。

1.値引き要求などによって価格が落ちていないか
2.主要顧客の構成が変わっていないか
3.儲からない商品の売上比率が高くなっていないか
4.儲かる商品の売上比率が低下していないか
5.材料・外注など仕入単価が上昇し、販売価格へ転嫁ができていないのではないか

様々な資源高、材料高に見舞われている昨今、特に5は注意ですね。
次回は、回転率について考えます。

Vol.47

2022.8.17「利益思考力」の優れたクリーニング店 

 

「利益思考力の強化」というセミナーや研修に注力しています。
「利益思考力」とは何かをよく問われますが、
企業における「利益思考力」とは、「いかに付加価値を高めるか」を考え抜く力です。

利益の追求には、基本的には「無駄を最小化する」と「新しい価値を生み出す」の、
2つの要素しかありません。
この2つの要素が、経営者だけでなく、幹部社員や一般社員にまでいきわたっている会社は
利益思考力のある会社と言えます。

利益思考力に優れたクリーニング店の例を挙げたいと思います。

ここ数年、コインランドリーは大変な出店競争になっていますが、
あるコインランドリー店は人を常駐させて、洗濯代行をしています。

お客は、受付で洗濯物を渡すと、あとの作業は店の人がやってくれます。
料金はコインランドリーで洗った場合の実費精算と同じなので、大変お得です。

そもそもコストを抑えるための無人コインランドリーなのに、人を置き、
追加料金も取らずに洗濯作業を代行して、はたして儲かるのでしょうか?

実はこのビジネスモデル、しっかり儲かっています。

通常のコインランドリーは、洗濯中に買い物など他の用事に行ってしまい放置する人がいるため、
稼働率は10%程度です。
しかし、このサービスでは、スタッフが作業するため、稼働率を50%以上に上げることができます。
ここで「数量アップ」が実現します。

さらに、来店時に洗濯物を受付する際、「通常の汚れ」と「しつこい汚れ」を仕分けして、
コインランドリーで落ちないしつこい汚れについては、ドライクリーニングを提案します。
一定のお客はオプションのドライクリーニングを利用しますので、
「単価アップ」が実現します。

このビジネスモデルは、クリーニング師の資格を持つスタッフを常駐させ、
その人件費分はコスト増となりますが、上記の取組みで「数量アップ」「単価アップ」を図り、
利益増を実現しながら、一般のコインランドリーでは得られない価値を顧客に提供しています。

このサービスを展開しているのは札幌市のジャバリンという店で、
「コインランドリー店アワード 2020最優秀賞」を受賞しています。
https://sapporo-list.info/iclexpo2020/

差別化の余地が少ないと思われるレッドオーシャンの業態であっても、
「利益思考力」が優れていると、同業他社とは違う価値を顧客に提供し、
利益につなげることができるいい事例です。

Vol.46

2022.7.20 位置取りと組織能力のバランス

 

外部環境の「位置取り」と内部環境の「組織能力」は、二択ではなく、補完関係にあります。

ターゲット市場において、よさそうな「位置取り」場所が見つかったとしても、
自社の中にそこで勝てる能力がなければ成果は見込めません。

また、他社に対して秀でた「組織能力」があったとしても、
その能力が活かせる場所が見つからなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。

つまり、「位置取り」と「組織能力」はどちらかを捨てて、どちらかに集中するのではなく、
両者の間を行き来しながら、戦略を進化させていく必要があります。

自社が取るべき「位置取り」のみを重視して組織能力の蓄積をおろそかにすれば、
一時的にうまく成功したとしても、より組織能力の高い企業に模倣されてしまったら、
競争優位性を失うリスクがあります。

逆に内部の組織能力を重視して外部環境変化を軽視すると、
その組織能力ではサバイバルできないような環境変化にさらされてしまった場合、
競争優位性を失うこともあります。

肝心なことは、両者の間を行き来して考えるということで、
・市場において「位置取り」に狙いをつけたら、その位置で勝つための「組織能力」を磨く。
・自社の「組織能力」に自信があるならば、それを活かせる「位置」を探す。

これは下請けであっても同じで、他の下請けとの差別化を図る上で必要な考え方です。

「組織能力」を磨くためには、そこに経営資源を優先的に配分しなければなりませんので、
「位置取り」と「組織能力」の最適なバランスを考慮することが、
ビジネスの成否を左右することになります。

Vol.45

2022.7.5 内部に重点を置くか、外部に重点を置くか

 

Vol44は、競争優位の源泉としての「組織能力」という強みについてでした。
これは、経営戦略では「リソースベースドビュー」と言います。

競争優位の源泉を「企業内部に蓄積された経営資源の活用」に求める考え方です。
あまり横文字は使いたくないので、私は「組織能力」という強みと呼んでいます。

「内部」に重点を置くのが「組織能力」という強み(リソースベースドビュー)ならば、
「外部」はなんと言うのか?

「外部」に重点を置いて競争優位を構築する経営戦略の考え方は「ポジショニングビュー」です。今回は、ポジショニングビューがどういったものかを考えますが、
これも横文字を使わず、「位置取り」と呼びことにします。

「位置取り」(ポジショニングビュー)は、企業が置かれている機会や脅威を基準にして、
自社の取るべき位置(ポジション)を考える点が特徴です。

事例を挙げるとわかりやすいので、今、絶好調の「ワークワン」を例にとります。
ワークマンは40年間、作業服の個人向け市場に「位置取り」してきましたが、
この市場だけでは、出店余地はそろそろ限界です。

作業服で培った技術を活用して、アウトドアウェアに進出するのは可能かを検討すると、
社内の多く人が、スポーツアウトドアはブランドメーカーの独占状態なので、
この分野のブランド力がない当社では難しいという声が大半でした。

しかし、アウトドアウェア市場を以下の4つに分類すると、位置取りの余地が見えました。
1)高価格でデザイン性が高い
2)低価格でデザイン性が高い
3)高価格で機能的
4)低価格で機能的

従来のアウトドアウェアは「高価格で機能的」に位置取りするものばかりで、
「低価格で機能的」なアウトドアウェアは競合がなく、かつ、市場規模も4000億円程度あることがわかりました。その後、この市場に、作業服で培った機能性を活かして参入し、大成功しているのはご存じの通りです。

「位置取り」(ポジショニングビュー)のメリットは、
競合他社や市場動向を踏まえた上で、戦略を策定できる点です。

例えば他社の位置取りと被らないようにすれば、真っ向勝負を回避して利益を確保できます。
外部環境分析を行い、成長市場にうまく参入できれば、効率的に収益をあげることも可能です。
ランチェスター戦略で言う「絞り込み」や「棲み分け」と同じ考え方ですね。

一方、注意点としては、たとえ成長市場に参入しても、あるいは、
他社と被らないような「位置取り」を見つけることができたとしても、
そもそも自社が得意している領域でなければ、うまくいく可能性は低くなります。

「位置取り」と「組織能力」の戦略は二択ではなく、補完関係にあります。

Vol.44

2022.6.21 組織能力という強み

 

持続的成長のためには、強みを活かした経営を行う必要があります。
そのためには、簡単にはマネをされない強みが必要です。
それではマネされにくい強みとは何でしょうか。

例えばある優れたヒット商品Aを開発して、売れ行き好調だとします。
当社の強みは「ヒット商品Aを保有していること」と言っても、
すぐに同じような商品が表れ、価格競争に巻き込まれてしまう場合もしばしばです。

例え一つの商品がヒットしても、よほど強固な特許に守られていれば別ですが、
近年ではすぐに模倣され、持続的成長を支えるものにはなりにくくなりました。

それに対し、マネをされにくい強みとして「組織能力による強み」があります。
例えばトヨタ自動車は素晴らしい業績を続けていますが、すごいヒット商品のおかげとか、
強固な特許に守られているため、というわけではありません。

持続的成長を支える要素は複数ありますが、「トヨタ生産方式」という独自の組織能力が、
優れた利益体質の元になっていることは間違いないでしょう。

このような組織能力は、他にもセブンイレブンの「仮説検証」、ユニクロの「SPAモデル」、
キーエンスやアイリスオオヤマの「スピード開発」などが挙げられます。

マネされにくい組織能力の最大の条件は、「外から見てわかりにくいこと」です。
わかりにくいから、マネが困難になります。

トヨタ生産方式の本は数えきれないほどありますし、研修やセミナーでも受講できます。
しかし、本を読んでも、研修を受けても、トヨタと同じことはなかなかできません。

例えば、あるサービス業が「優れた接客サービス」で、繁盛しているとします。
接客サービス自体は、覆面調査して自らサービスを体験すれば、理解できます。
しかし、「短期間でアルバイトに接客スキルを教育する手法」や、
「アルバイトのモチベーションを高く維持するノウハウ」などは外から見えません。
このような「組織能力」は、外から見えないのでマネが困難です。

すぐに身につく「組織能力」なら、競合企業でも短期間で模倣できてしまうでしょう。
しかし、長年にわたって鍛錬し、熟成して、深化させた結果として身についた組織能力ほど
模倣が困難となります。これは中小企業でも構築可能です。

「組織能力」は長年にわたる試行錯誤と失敗体験・成功体験の過程で能力形成され、
組織内部に暗黙的な経験知が積みあがり、そこに属人的な経験知が加わることで、
他社がマネをしようとしても難しい強みになります。

Vol.43

2022.6.7 リスクリバーサルは注意も必要

 

繰り返しになりますが、リスクリバーサルをビジネスへうまく取り入れることができれば、見込客の成約率がアップし、顧客満足度も高まります。

一方、注意点は「自社で引き受けるリスクがコントロールできるかどうか」です。

例えば、学習教材を「想定した内容と違った場合、1週間以内なら返品可」という
リスクリバーサルをつけて、通販で販売したとします。
このリスクリバーサル(もちろん製品の良さも)をアピールし、数多く販売できました。

いくつか返品されたとしても、検品し、改めて包装し直せば、新品として販売できます。
多少の再包装コストがかかっても、リスクリバーサルの効果で数多く販売できたので、
これなら問題ありません。

このように、改めて販売できる標準品はいいですが、顧客毎に仕様が変わる受注製品は向きません。受注製品が戻ってきたら、次の顧客の仕様に変えるために大きなコストがかかってしまいます。このように、戻ってきた製品を、そのまま再び売ることが難しいものは向きません。

ライザップのような人的サービスは向いています。
「30日以内なら返金可」というリスクリバーサルに基づいて返金したとしても、
人的サービスなので材料の損失はなく、サービスを提供した人件費の損失のみで済みます。

人件費の損失のみであれば、このリスクリバーサルは、数十万の会員費を払う際、
お客に生じた迷いに対し、契約に向けてお客の背中を押してくれるので、充分ペイします。

それと、「あとから取返しがつかないもの」はリスクリバーサルを付けても効果はありません。
例えば「今回は〇〇医師の初手術なので特価〇円。万が一手術が失敗したら全額返金可。」
と言われて、手術を受ける人はいないでしょう。

まとめですが、リスクリバーサルは「お客が何をリスクと感じているか」を把握し、
そのリスク要因を取り除くことです。
リスク要因は必ずしもお金だけとは限りません。

例えば、充分な説明が必要なサービス商品の場合、「無料相談実施」というのがあります。
無料相談はお金を払わないので、リスクリバーサルは不要と思うかもしれません。しかし、この場合のお客のリスクは「相談は無料でも、後からしつこく営業されたらいや」です。

よって、「無料相談後に、当社から契約を迫ることも営業することもありません」
とリスクリバーサルを設定すれば、無料相談に応じる人は確実に増えます。

Vol.42

2022.5.24 自社のサービスにあったリスクリバーサル

 

リスクリバーサルを自社のビジネスへうまく取り入れることができれば、見込客の成約率をアップさせ、顧客満足度を高める効果も期待できます。

前回はスーパーホテルの安眠保証の例をご紹介しました。

顧客が購買を決める前には、どんな商品やサービスに対してでも、
必ず商品への期待(購入を後押しする力)と相反する不安(購買を妨げる力)の2つが働きます。

行動経済学でも証明されていますが、人間は、「得することを選ぶ」より、
「損することを避けたがる」性質があるので、損しそうな不安が大きければ大きいほど、
購買を躊躇することになり、なかなか購買に踏み切れません。

その不安をなくす(あるいは軽減する)リスクリバーサルには、以下のようなものがあります。

1.返金保証
2.返品保証
3.成果保証
4.修正保証
5.修理保証

それぞれの例としては、

1はライザップの30日間返金制度など、サービスに不満があれば返金するというようなもの。

2は「購入後〇日間なら返品可能」というような商品に不満があれば返品を受け付けるもの。

3は「〇〇試験に合格するまで追加費用なしで支援する」など、効果が出るまで無料で
サービスを継続するというようなもの。当社も補助金の採択支援でこれを取り入れています。

4は美容院などで「気に入らない場合、無料で修正可」というような、
サービスがイメージと違った場合は、一定期間内で修正を受け付けるもの。

5は家電販売などの「長期無料保証」のように、商品が故障した場合、無償で修理受付するなどです。

いずれもポイントは「絞り込み」です。
リスクリバーサルは、顧客の購買リスクの一部を「販売側が引き受ける」ため、
絞り込んだターゲットに向けて、絞り込んだ商品・サービスの品質を高めた上でやらないと、
販売側のリスクが大きくなります。

以上のように、リスクリバーサルは、うまく運営できれば、購買に関する顧客の不安(リスク)を肩代わり(あるいは軽減)できるため、顧客の購買を後押しすることができます。

一方、リスクリバーサルを採用する際の留意点として、以下のようなものがあります。

1.返金条件をしっかり明記しないとトラブルのもとになる。
2.保証を当て込んだ、本気度が低い客(冷やかし客)が増える可能性がある。
3.どこでもやっているありきたりな保証内容だと効果が弱い。

Vol.41

2022.5.10   リスクリバーサルは絞り込みが重要

 

前回の最後、「リスクリバーサル」のお話をしました。
改めて「リスクリバーサル」とは、商品やサービスの利用を考えている顧客の不安やリスクを取り除くことです。

リスクリバーサルという言葉になじみはないかもしれませんが、日常的に、色々なところで活用されています。

リスクリバーサルは非常に重要です。
「現状の不を解消したい」、あるいは「現状を更によくしたい」という変化を望む顧客は、
その商品・サービスが本当に変化をもたらしてくれるのか、という不安を抱きます。
その不安を和らげて、購入のハードルを下げるのがリスクリバーサルです。

リスクリバーサルをビジネスへうまく取り入れることができれば、
見込客の成約率がアップし、顧客満足度も高まります。

リスクリバーサルの事例をご紹介します。
日本経営品質賞を2度取った、スーパーホテルという顧客満足度が高いビジネスホテルがあります。

同ホテルは、安眠を求めるビジネス顧客をターゲットにして、
快適安眠の研究を大学と共同で行い、ベッド、まくら、照明、飲料水、その他サービスを、
安眠の観点から徹底的に研究して、提供しています。
https://www.superhotel.co.jp/gussri/

そして、安眠できなかったら宿泊料を返金する制度を採用しています。
https://www.superhotel.co.jp/promise/

このリスクリバーサルについては、他のホテルは追随が難しいです。
なぜならば、他のホテルは安眠に特化してサービスを作りこんでいるわけでないので、
「安眠できなかった場合は返金」とは言えず、
もちろん、安眠を含むすべての不満足に返金することなど、できません。

しかし、スーパーホテルは安眠に特化してサービスを作りこみ、
品質を高めているからこれができます。

ポイントは「絞り込み」です。総花的にサービスを提供していたのでは、これはできません。
そして、絞り込んだターゲットに向けて、絞り込んだサービスの品質を高め、
その品質をコミットします。

この返金制度は、初めて利用を考えている客に対して、
「ここまでやるのならゆっくり眠れるだろう」という印象を与えることができるため、
新規顧客の獲得に効果があります。

以上はリスクリバーサルの中の「返金制度」の例ですが、
これ以外にもリスクリバーサルはありますので、次回ご紹介します。

Vol.40

2022.4.18   変化をコミットする

 

前回、顧客ニーズは「変化」で表せるというお話でした。

一つは「現状の不の解消」という変化。例えば、不便、不満、不具合、不足などを解消し、リスクやコストを減らしたいというニーズです。

もう一つは、「現状を更によくする」という変化。例えば、より美しくなりたい、より儲けたいなど、便益や体験を増やしたいというニーズです。

どちらも、「現状」から「あるべき姿」に変化したいというニーズです。

これを数十秒のCMで伝えているのがライザップですが、ライザップの機能(スペック)は、
「低糖質食事法」「マンツーマンの筋トレ」「トレーナーによるメンタルフォロー」です。
しかし、CMでは機能(スペック)については一切触れていません。

真剣にダイエットしたい人にとっては、目指す期間内でダイエットできるかどうか(=変化)に
興味があるのであって、機能にはあまり興味がありません。

でも、多くの営業マンは自社の製品・サービスの機能ばかり伝えたがるんです。
私は会社員時代、IT系の営業をやってましたが、今思うと機能ばかり語っていた記憶があります。
「当社の製品はこんなことができます」「こんな機能があるのは当社のみです」などなど・・・

「当社のこの製品を使うと、お客様の現状の業務はこう改善され、こうなります」というように、
自社の製品を使用することで、顧客が得られる変化をしっかり訴求していたら、
「もっと売れていただろうに」と思います。

競合に比べて当社は、お客様がお望みの変化を提供できますということを
うまく伝えることができれば、必ずその商品・サービスの売れ行きはよくなります。

そして、その変化をコミットすれば、さらに顧客を獲得しやすくなります。
ライザップでは、「30日間コース代金全額返金保証制度」をとっており、
プログラム開始から30日間はいかなる理由でも納得できないときは、
コース代金を全額返金するとしています。

このような制度で、商品・サービスの利用を考えている顧客の不安やリスクを
取り除くことを、マーケティング用語で「リスクリバーサル」といいます。
購買に関する顧客のリスクを反転(リバース)することですね。

リスクリバーサルは非常に重要です。
特に高額な商品・サービスで効果があります。
次回はリスクリバーサルの実際の例を挙げて、その効果を考えます。

Vol.39

2022.4.4   顧客は攻略すべき相手か?

 

営業会議などで「顧客をいかに攻略するか」という話をよく聞きます。攻略=戦うことなので、これだと、顧客を戦う相手と捉えていることになります。

また、顧客を「囲い込む」と言ったりもします。その背景には「どうやって買わせ、そして逃がさないか」という意図が見え隠れします。このように顧客はコントロールできる存在なのでしょうか?

ドラッカーは企業の目的を「顧客を創造すること」と定義しました。「顧客を創造する」ということは、「顧客から選ばれる」ということです。なぜなら、取引先を選ぶ権利は、例外的な独占市場を除いて100%顧客側にあるからです。

攻略するのではなく、選ばれなければ顧客は創造できません。それでは顧客に選ばれるためには、何をすべきでしょうか?

ポイントは、「当社はお客様が望む変化を提供できますよ」と伝えることです。顧客ニーズは「変化」の一言で表せます。

BtoBビジネスでも、BtoCビジネスでも、顧客ニーズは2つにくくれます。

一つは「現状の不を解消する」こと。例えば、不便、不満、不都合、不具合、不足などを解消し、リスク、労力、コストを減らす。

もう一つは、「現状を更によくする」こと。例えば、より美しくなりたい、より利益を増やしたいなど、便益、機能、体験を増やす。

そして、2つに共通することは、「現状」から「あるべき姿」に向けた「変化」です。

このポイントCMでうまく伝えている例が「ライザップ」です。ライザップのCMは、「変化」しか伝えていません。CMでは、機能やサービス内容には一切触れず、タレントを使って、サービスを受ける前と後の体形・顔つきの変化のみ伝えています。

顧客は「機能」にはあまり興味がないんです。顧客はあくまでも「変化」を望んでいるのであって、このように、ビフォーアフターの変化をわかりやすく示すと、その変化を望んでいる顧客から選ばれる可能性が高まります。

この例は非常に参考になるので、次回は競合との関係を交えて更に深掘りします。

Vol.38

2022.3.15   競合相手と「ずらす」経営

 

以前から「ランチェスター戦略」など競争戦略について研究をしています。競争戦略と言うと、「相手を打ち負かすための戦略」ととられる方も多いと思います。

生物の生存競争では、すべての生物が自分だけの生存領域を持っています。そして、その生存領域が重なれば、重なったところでは激しい競争が起こり、どちらか一種だけが生き残ります。

芸能界では「キャラ被り」を嫌います。

同じような特徴を持つ芸能人は、テレビ番組の中では二人はいりません。どちらかの出演が増えれば、どちらかは次第に使われなくなります。そうすると、片方は「キャラ変」をしないと生き残れません。

このように、競合と戦わなければならない局面もありますが、競争戦略の本質は「いかに相手と戦わずにすませるか」です。そのためには、競合との争いを避けるために、生存領域を「ずらす」ことが重要です。

いざ戦ってしまったら、必ず勝てる保証はありませんし、万が一勝てたとしても、体力や資源を消耗してしまいます。よって「ずらす」ことで互いに棲み分けができるならこの方がいいです。

生物であれば、同じ場所に暮らしていても、エサが異なれば共存できます。エサが同じでも、活動時間が昼と夜で別であれば共存できます。芸能界なら、キャラが被らないように特徴や売りを変える。

互いに争って奪い合うよりも「ずらす」ことで生存できる。これが「ずらす」という戦略です。

電機量販店1位の「ヤマダ電機」に対して、2位の「ビックカメラ」は、真っ向勝負を仕掛けるのではなく、「ずらす」戦略を取っています。出店に関しては、ヤマダ電機は都市型駅前店のLABIも展開していますが、全体から見ると都市型店舗はわずかで、郊外店が圧倒的に多いです。

 一方のビックカメラは、直営店舗の8割近くが大都市圏です。

 品揃えについては、ヤマダ電機は住宅関連事業と家電の相乗効果を狙っています。具体的には、注文住宅のエス・バイ・エルや、家具販売の大塚家具を子会社化しました。

一方のビックカメラは、雑貨や日用品と家電を組み合わせて販売する品揃えを展開しています。アルコールを扱う店舗や医薬品を扱う店舗を展開し、専門知識を持った店員を育成しています。

よく見ると、真っ向勝負ではなく、お互いにずらして、棲み分けしている事例をよくみます。世界ではシェアNO1のイケアも、日本ではニトリと真っ向勝負せずにずらしています。次回は、このように、競合と「戦わない戦略」について更に考えてみます。

Vol.37

2022.2.22   経営者がスポーツを好む理由

 

北京オリンピックが閉会しました。

2週間、様々な競技を見ていましたが、極限まで鍛えた肉体から繰り出される技には、
普段なじみのない競技でも感嘆するばかりでした。

さて、大手・中小企業を問わず、経営者の中にもスポーツを好む人は多いです。
ゴルフは営業活動の一環として行う人も多いですが、
筋トレ、マラソン、登山など一人でできるものや、
ラグビー、サッカー、野球などチームスポーツの愛好者も多いです。

経営者がスポーツを好む理由として、「達成感」があります。

例えば、筋トレは、続けることで確実に達成感が得られます。
それまで3セットしかできなかった筋トレが、今週は5セットまでできるようになった。
ベンチャー経営者が、会社を大きくしていく過程で得られる達成感に似ているかもしれません。

また、スポーツを続けると、体調面だけでなくメンタル面も充実し、仕事にも良い影響が生じます。
例えば、計画を立てて達成していくプロセスは「自信」を生みます。

ランニングでは、それまで5キロしか走ったことがなかった人が、
トレーニングを続けることで、10キロ、20キロと走れるようになり、
やがて大会でフルマラソンを完走できると、大きな「達成感」と「自信」が得られます。

私も20年以上前ですが、フルマラソンを初めて完走したとき、大きな達成感を得ました。

その時のタイムは4時間50分でしたが、その後練習を重ね、4年後に、
3時間25分まで短縮できるようになりました。
専門書を読んで練習計画を立て、練習方法や食事などを研究したことを覚えています。

その他のスポーツの効用としては、以下のようなものがあります。

・筋肉が付き、基礎代謝が上がり、ダイエットに繋がる。
・体を動かすことで、脳の衰えを防止できる。
・スポーツに向き合い、自分を追い込むことでストイックさが伝わり、好印象を与える。
・スポーツのコミュニティを通じて新たな人脈やビジネスが生まれることがある。

コロナ禍で2年ほどマラソン大会が中止になっていましたが、この春から徐々に再開されます。
私も、オリンピックに触発されて、練習を再開しました。
ただし年齢的にフルマラソンは厳しいので、ハーフマラソン1時間45分を目指します。

Vol.36

2022.2.8   大谷選手を育成した経営マインド

 

 

中小企業経営者向け雑誌の「日経トップリーダー」2月号に興味深い記事がありました。

二刀流の大谷翔平選手やマリナーズの菊池雄星選手など、高校野球の強豪が少ない東北で、
数多くの逸材を育成した花巻東高校野球部の佐々木監督のインタビュー記事です。

経営者向け雑誌で高校野球監督のインタビューは珍しいなと思って読んでみると、
佐々木監督は経営を学んで野球の指導に活かしているとのことで、
興味深いエピソードが数多く紹介されていました。

例えば、「ゴールからの逆算思考」です。
これは、最初に目標(ゴール)を具体的に設定し、そこから逆算して、
その目標に到達するための手段、方法、日程などを考えるという思考方法で、
仕事の成果を高めるためには大切な考え方です。

佐々木監督はこれを取り入れ、毎朝30分を割いて一人一人に高い目標を設定させ、
そこから逆算して、今日は何をすればそのゴールに近づけるのかを考えさせました。

この取組みは、大谷選手の「プロ8球団からドラフト1位指名」を目標にした
「目標達成シート」で有名になったので、ご存知の方も多いと思います。
 ↓ プレジデントオンラインの記事
https://president.jp/articles/-/47766?page=2

ゴール(成果)に結びつかない非効率的な練習などは、選手主体の「カイゼングループ」で
討議して、指導者に逆提案させる仕組みがあります。
これなど、まさに日本の製造業が得意な改善活動です。

また、企業の「採用」の考え方を「選手集め」に取り入れました。
同校は、甲子園に初出場する2005年まで選手集めに大変苦労しており、
これは人が採用できないと悩んでいる中小企業に共通します。

そこで「顧客満足」の考え方を取り入れ、同行野球部に行けば、地元のいい会社に就職できる、
希望の大学にも行けるなど、一人一人の「出口戦略」に力を入れた結果、
昨年、開校以来、初の東大合格者が野球部から出ました。
今は野球部への入部希望者が殺到しています。

一番興味深かったのは、「人の失敗を活かす」という考え方です。
「自分の失敗を活かす」という話はよく聞きます。
しかし、他人の失敗ノウハウはなかなか聞けません。
「あなたの失敗を教えて下さい」とストレートに言えば、たいてい、むっとされます。

佐々木監督は、甲子園の常連監督を数多く訪問し、次のように話をしたそうです。
「私はいままで失敗ばかりしてきました。〇〇さんともなれば失敗なんかしたことないですよね」

すると、「何言っているんだ。山ほど失敗してきたよ」と言って、ダーっと失敗話が始まります。そのようにして聞いた、成功監督の失敗話は、本当に参考になることが多かったそうです。

自分の失敗を活かすだけでは人生何回あっても足りない。
成功者の自慢話ではなく、いかに成功者の失敗話を聞き出すかがポイントとのことでした。

テレビでも「しくじり先生」という番組をたまにやってますね。
「失敗から学ぶことは最も費用対効果がいい」と言いますが、
人の失敗を活かせれば、更に費用対効果が上がります。

大谷選手の活躍は、もちろん、本人の才能と努力によるものですが、
その背景には、才能を伸ばす(邪魔しない)指導があったことがよくわかりました。

Vol.35

2022.1.26   成熟市場へ参入するポイント

 

 

この2年、コロナで「対人接触型」のビジネスが影響を受けましたが、これは、コロナという外部環境変化の特性によるものであり、今後発生しうる外部環境変化によっては、今回影響を受けなかった企業も安泰ではありません。

現在は好調でも、中核事業だけの1本足打法はリスク大です。
まして、既存事業が低迷している企業は、会社存続のために新たな展開を図る必要があり、
国も中小企業政策として、「事業再構築補助金」などでその後押しをしています。

どのような市場に参入すべきかを「市場の成長性」の視点で考えてみたいと思います。
自社の強みが活かせそうな市場が、これから伸びる成長市場なら、うまく市場ニーズを捉え、
市場の伸びに乗れれば、売上を拡大できる可能性があります。

特に海外に目を向ければ、そんな市場もあるでしょう。
しかし、そのような成長市場は、豊富にあるわけではなく、
仮に、あったとしても参入企業が多いことは覚悟しなければなりません。

新規参入市場の候補として、多くの場合は、「成熟市場」になるでしょう。
国内人口が減少し、市場全体が縮小しているので、これは自明です。

しかし、成熟市場への参入でも、勝機はあります。
ポイントの一つは「不の解消」です。

例えば、ミツカンは、中核事業の調味料(ミツカン酢など)に加えて、
1997年、成熟市場である納豆業界に、後発で参入しました。
その時に意識したのは、「不の解消」を意識した差別化です。

例えば、「納豆のタレの袋を切る際、手についてしまう」という「不満」を解消した商品です。

画期的なタレ容器 パキッ!とたれ
https://www.mizkan.co.jp/natto/feature/pakitto/

そのほかにも、 納豆特有の気になるにおい(低級分岐脂肪酸)を抑えた納豆など、
「不の解消」の視点で商品展開を行い、後発参入ながら、今では納豆業界のシェア2位です。

成熟市場では商品があふれ、ユーザーも使い方を熟知していますが、万能な商品はありません。既存商品の不(不満、不都合、不備など)に着目できることは、後発で参入するメリットと言えます。成熟市場の家電業界でヒットを連発しているアイリスオオヤマも、同じような発想です。

Vol.34

2021.12.17   ニッチトップにむけた地域の絞り込み

 

中小企業が目指すべき姿は「特定分野でNO1」の企業、すなわち「ニッチトップ企業」です。
そのために有効な絞り込みとして、「顧客」「商品」の絞り込み事例をご案内してきました。
最後は「地域」です。

ネットを主体としてビジネスをしている場合は別として、営業マンが訪問して商談したり、自社スタッフが現場に移動してサービスを提供する業態の場合、地域の絞り込みは極めて重要です。

地域を絞り込み、そこに経営資源を集中させることで、販促や営業の効率がアップし、その地域における知名度も向上します。

そして、地域密着は一番簡単な差別化策と言えます。
商品力で差別化することは、顧客ニーズの把握力や商品開発力が必要となるため、決して簡単ではありません。しかし、地域の絞り込みは、その地域に絞り込む根拠を明確にできれば、あとは意思決定の問題です。

商圏を自社から5キロ圏内に絞り込み、下請けから脱却した外壁塗装の会社があります。
従来はほぼ100%下請けで、神奈川県の本社から、元請けの依頼によって、関東一円の現場に出向いて仕事をしていました。

職人は移動だけで体に負担がかかり、拘束時間も長いため、なかなか定着しませんでした。
社長は、このままでは会社の維持が難しいと考え、下請けではなく、お客様から直接受注することを目指しました。

そして、本社の一部を店舗に改築し、ホームページを開設。
本社の周辺を中心に繰り返しチラシをポスティングしました。
徐々に効果が出始め、既存顧客からの紹介と、ホームページからの問い合わせで注文が増えていきました。

3年ほどで地域からの直接受注が売上の半分を占めるまでになり、下請け仕事は、遠方については撤退し、自社から近いところを中心に請け負っています。

地域密着の効果としては、移動が楽になって職人の負担が減ったこと、直接受注のため、単価を自分で設定できるようになり利益率が上向いたこと、1人のお客様から10軒以上紹介してもらった例など、紹介による営業が増えたこと、などがあります。

注意していることとしては、地域密着で営業していると、クレームが頻発するなど悪評が立つと、すぐに商圏内に広まってしまいます。

もし悪評が立ったとしても、引っ越しをして、他の地域に行くことなどできません。
よって、信用第一で丁寧な施工を心がけていますが、それが紹介を生んでいます。

地域密着の場合は、自社の地盤はしっかりと抑えければなりません。
本社や工場の周辺など、自社の地元で勝たなければ他社の土俵で勝てるわけがありません。
スポーツで言えば、ホームで勝てなければアウエーで勝つことは困難です。
まずは地元を磐石することが重要です。

Vol.33

2021.11.24   ニッチトップにむけた商品の絞り込み

 

中小企業が目指すべき姿は「特定分野でNO1」の企業、すなわち「ニッチトップ企業」です。

そのための今回のテーマは「商品の絞り込み」です。
顧客から選ばれる存在になるためには、なんといっても、自社の商品やサービスに磨きをかけ、
競合と差別化を図ることが欠かせません。

資源を分散投入していては、すべて中途半端になり、どこにも勝てなくなります。
資源を集中投入すると、その分だけ他には投資できなくなり、
投資できない領域では自社は弱くなります。

しかし、それを覚悟しないと、競合に対して資源的に優位になる領域がなくなってしまい、
どこにも勝てなくなります。

東京都新宿区に「ケンズカフェ東京」というガトーショコラの専門店があります。
https://kenscafe.jp/

当初はイタリアンレストランとして経営していましたが、集客に苦戦し、
コース料理のデザートとして評判がよかった「ガトーショコラ」の専門店に業態転換しました。

提供するのはガトーショコラのみで、1本280gという小ぶりな大きさにもかかわらず、
価格は税込3000円です。
最高級のチョコレート素材を使い、味の奥深さ、香り、コク、などが段違いと大変評判です。
販売当初は、現在の2倍の大きさで価格は半額でしたので、
当時からすると4倍の値上げをしたことになります。

しかし、3000円としたことで、自家用だけでなく贈答用の需要も加わり、
結果的には値上げ後のほうが爆発的に売れています。

また、以前はネットで地方にも販売していましたが、少人数運営で手間がかかるため、
仕事の質を下げないために、売上減少を覚悟の上でネット販売をやめたところ、
驚くことに売上が更に増えました。

「店に行かないと買えないという限定感」がブランド価値を高めました。
(現在はFCで、那須と静岡でも展開中)

この事例は、商品が断トツに素晴らしいことが最大要因ですが、品質と価格を上げ、
商圏を狭めて売上が増えたという事例で、書籍にもなっています。
「1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れるワケ 4倍値上げしても売れる仕組みの作り方」
www.amazon.co.jp/dp/4797375108

ここまでの尖った取り組みは難しいかもしれませんが、商品を絞り込んで品質を高める、
商圏を絞り込んでブランディングするなど、絞り込みで提供価値を高め、
顧客から選ばれている点は参考になります。

商品を絞り込む上で注意したいことは、まず自社の強みをしっかり把握することです。
ガトーショコラの例では、イタリアンレストランの経営では、
集客で苦戦して撤退しましたが、デザートで評判がよかったガトーショコラに特化しました。

いったん絞り込んで、資源を投入した後に方向転換すると、お金と時間のムダが生じますので、
絞り込みの意思決定をする前に、お客様に喜ばれた経験や、感謝された経験などを棚卸し、
場合によってはテストマーケティングをするなどして、絞り込む領域をよく見極めることが重要となります。

Vol.32

2021.11.9   ニッチトップにむけた顧客の絞り込み

 

中小企業が目指すべき姿は「特定分野でNO1」の企業、すなわち「ニッチトップ企業」です。


「ニッチトップ企業」を目指すには、「顧客の絞り込み」が重要です。
電気や水道のようなインフラ事業などは別にして、どんな事業でも、
市場のすべての顧客から必要とされ、支持されるということはありません。

理由は、消費者向けの事業であれば、好みがそれぞれ違いますし、
法人向け事業であれば、ニーズや抱えている課題が違うためです。

ビジネスにおける八方美人は、結局、誰からも好かれません。
多くの企業に好かれようとしてターゲットを広くすると、商品やサービスが薄まり、
自社の特徴が出せなくなってしまうため、ニッチトップにはなれません。

よって、自社が選ばれたいと思っているターゲットを絞り込み、
そのターゲットに向けて商品・サービスを作り込む必要があります。

ターゲットを絞り込むことは、「客筋をよくする」ことです。
「客筋をよくする」ことは、古今東西、商売の原則です。

客筋が悪いと、すぐに価格の話になりがちで、関係性が継続しません。
その一方、自社の提供価値を評価してくれる「よい客筋」の顧客と取引ができれば、
お互いの信頼関係に基づき、長い取引が期待できます。

顧客の絞り込みは「選択と集中」であり、決して目新しい考え方ではありません。
しかし、いざ実行するとなると、簡単ではありません。

よくある点は、「絞り込みが徹底できない」ことです。
絞り込みをすると、対象外とした顧客の一部が離反します。

その時、新規顧客の開拓が追いつかない場合、一定期間、売上が減少します。
この絞り込み開始時期の売上減少でひるんでしまって、絞り込みの基準を緩め、
元に戻ることがよくあります。

これを防ぐには、絞り込んだ後に、継続的に効果を測定することです。
対象顧客が新規で増えているか、引き合いが増えているかを把握し、
ターゲットに向けたマーケティングをしっかり行う必要があります

そして、絞り込みの前と後で、売上と利益を比較します。
「増収増益」なら問題ありません。
一部の顧客が離反したものの、効率がよくなり、「減収増益」になることもあります。
これは絞り込みの効果が出ていると言えます。

しかし、「減収減益」は要注意です。
新規顧客の増加傾向、既存顧客の今後の離反の予測、利益の状況などをしっかり分析し、
絞り込みのプロセスや対象にまずい点はないかを検証し、手を打つ必要があります。
次回は「商品の絞り込み」についてです。

Vol.31

2021.10.25  持続的成長をもたらすニッチトップ企業

 

日頃、営業強化や補助金を活用した生産力強化の支援を行っている中で、様々な企業の財務諸表を目にしますが、儲かっている企業の特徴のひとつが、「特定分野でNO1」企業、すなわち「ニッチトップ企業」が多いことです。

 小さなニッチ市場でも、そこで一番になると、市場で社名が浸透します。顧客が商品を選ぶ際、まず、選定候補に挙がっていなければ選ばれることはありません。知名度の低い企業は、名を売るための営業活動を必死にする必要がありますが、ニッチトップ企業はこの段階でかなり優位です。

 特定分野でNO1になったら、ホームページに記載する、名刺に書く、会社案内に書く、看板に書くなど、積極的にニッチトップであることを訴求することで、NO1となった地域・商品・顧客層における知名度が向上します。

 ニッチトップになると、価格の主導権を握れます。仕入で優位に立てるので、価格交渉力がついてコストダウンが実現したり、シェアNO1のポジションを背景に単価アップを図りやすくなり、高い利益率を維持できます。

 シェア1位の分野があると社員の士気が上がり、社員に好影響を与えます。営業マンにとっては営業がやりやすくなり、製造部門もNO1商品のプライドが生じ、更によい商品を作る動機付けになります。

 採用面でもプラスです。中小企業の採用は簡単ではありませんが、小規模でもNO1分野があれば、他社との違いを打ち出すことができて、良い人材が応募してくれやすくなります。

 私は「ニッチトップ戦略パートナー」を名乗っていますが、経営相談で中小企業の経営者にニッチトップ戦略を説明すると、多くの方は「自社でも可能なNO1領域はあるだろうか」と疑問を持たれます。

 結論として、どのような企業でも目指すべきNO1領域は存在し、実現可能です。そのポイントは「絞り込み」です。

次回以降、ご案内いたします。

Vol.30

2021.10.6   絶好調ワークマンの「エクセル経営」

 

今週はノーベル賞ウイークですが、化学や医学の分野ではファクトベース思考、つまり、事実に基づいて考えることが必須です。エビデンスがなければ、自らが主張する内容を証明できません。

経営も同じです。ファクトベースではなく、勘や経験に頼っていては適切な経営の意思決定ができません。ファクトベースで意思決定するためには、様々な経営数値の分析が必要です。

 例えば、

・小売業であれば、どの時間帯の人件費が、売上に対して高いか低いかを分析する。

・そして、1日の中でいちばん来店客が多い時間帯はどの程度人員を増やせばいいのか、来店客が少ない時間は減らせばいいのか、というようなシミュレーションをする。

・各店の売上状況をグラフにして、何曜日に売上が上がる傾向があるかを分析する。

・それを元に、次の週の何曜日は忙しくなりそうという予測を立て、その曜日の人員を増やしたり、品切れを起こさないように発注を増やしてして売上増につなげる。

・製造業であれば、どの商品を多く作れば、もっと利益が出るのかを分析する。

・製品の材料コストを引いた限界利益と製造時間を管理して、一番優先すべきは、限界利益が高くて、時間当たり生産数が多い(=作りやすい)製品を優先的に受注する。

・次に、限界利益は高いが作りにくい製品、限界利益が低いが作りやすい製品について、どちらを優先すべきか検討する。

・限界利益が低くて作りにくい製品は縮小する。

上記はほんの一例ですが、私が日頃接している感覚からすると、多くの中小企業は、なかなかこのような分析ができていません。データ分析と言っても、中小企業では高度なデータ解析のシステムなど導入できませんので、見直したいのが、エクセルの活用です。

エクセルを必須科目にしている企業として、今、絶好調のワークワンがあります。ワークマンは、全社員に対してエクセルの研修を行い、データ分析スキルを身に付けさせています。この効果で、同社は従来の勘と経験による意思決定から、全社員がデータに基づく意思決定ができるようになり、今の好業績につながっています。

一例として、「未導入製品の発見分析」があります。スーパーバイザーが店舗を回る際、最大の仕事は、店舗の品揃えの確認です。「未導入製品の発見分析」は、エクセルに店番号を入力すると、その店で扱っていない製品が、他店で売れている順番に一覧で表示されます。つまり、「この製品を入れていれば、もっと売上が上がっていたはず」というリストです。

今までは、スーパーバイザーが伝えたからといって店長がすぐに動くとは限りませんでしたが、「未導入製品の発見分析」を見せると、仕入れれば儲かる製品が並んでいるため、説得力があります。

これは、ほんの一例ですが、エクセルの研修を受けてすぐ、若いスーパーバイザーが始めた分析です。このように全社員が自分の持ち場で、データ分析を行い「ファクトベース」で意思決定を行い、よい分析はすぐに全社で共有します。

エクセルの分析であれば、中小企業でも大手企業に対するハンデはありません。エクセルの分析スキルは、1日2~3万円の研修で充分可能です。今からでも、ファクトベースの経営を志向しましょう。

Vol.29

2021.9.20   「無人冷凍餃子」の店が成り立つ理由

 

家の近くを散歩中、無人販売の冷凍餃子店がオープンしてたのを見つけて入ってみました。冷凍庫に入っている餃子を客が取り出し、料金箱にお金を入れて買うシステムです。無人販売といえば、田舎における野菜が定番でしたが、最近、24時間営業の「無人冷凍餃子」直売所が、あちこちに出店しています。

冷凍餃子直売所を全国に展開しているのは「餃子の雪松」です。20189月に1号店をオープン以降、関東や中部地方を中心に140店舗以上を展開しています。

商品は36個入り冷凍餃子1000円(税込)、1品のみです。雪松の餃子はキャベツを中心とした野菜餃子で、豚肉をわずかに含んでいます。野菜の甘み、モチモチ食感、しっかり味が付いた餡がおいしいと評判です。

この店が繁盛している要因としては、

・コロナで家族そろって外食する機会が減ったので、夕飯用に購入。

・餃子は、子どもも大人も好きなメニュー。

・解凍するだけで手間いらず。

・無人で人と接触しなくていいのでコロナの今は安心。などが挙げられます。

しかし、盗難されないのでしょうか?3年で140店以上を展開しているということは、経営として成り立っていると言えます。

この店は、盗まれないための工夫として、以下のようなことをしています。

・防犯カメラの設置

カメラが設置してあるのは入店時にわかるので、盗難の抑止効果があります。

・料金箱の工夫

料金箱が神社のお賽銭入れのようになっています。この形にしたのは経営者の遊び心のようですが、神社でお参りするとき、賽銭を入れずに神様にお願いする人はいませんので、これも、料金を入れずに商品を持ち帰る行動を抑止する効果があります。

これ以外にも、そもそもの背景として、日本の治安のよさやなどもあるでしょう。

それでも、一定程度の盗難は発生していると思われます。無人販売の盗難率はどの程度でしょうか。統計はないのですが、田舎の無人野菜販売では、1割程度は盗難されると聞いたことがあります。

雪松の場合、盗難コストを「商品価格に盛り込んでいる」と推定します。商品価格の構成要素は、商品の原価+管理コスト(店舗費、人件費等)+利益です。

まず、雪松は無人なので人件費がかかりません。24時間営業なので、人を置いていたら人件費がかなりかかりますので、この差は大きい。商品が1種類しかないなのも、商品原価を抑えることに寄与しています。レジの代わりに料金箱なので、設備費も抑えられます。

よって、1000円の中に、商品の原価+管理コスト+一定の盗難コストを盛り込み、それでも充分利益が出ているはずです。

もちろん、商品の質がよいのが大前提なので、おいしさがリピーターを確保しています。リピーターになり、ファンになれば、悪いことはしないでしょう。

無人販売は、コロナリスクを回避するための非接触の仕組みで、人手不足の解消にもつながります。これから他の業態にも広がるかどうか、雪松の今後の拡大が注目されます。

Vol.28

2021.9.1    代替需要を狙う

 

8月26日のカンブリア宮殿(テレビ東京)で、取っ手のとれるフライパンや電気ケトルなど、ユニークな調理器具で知られているティファ―ル日本法人社長のアンディ氏が出演していました。

アンディ氏は「市場が縮小しているときは、新しい製品を出すか、既存の製品の新しい売り方を考えなくてはならない」と言っていました。非常にシンプルですが、まったくその通りです。

アンディ氏が言っていることは、事業の成長・拡大の方向性を示す有名な「アンゾフの成長マトリックス」では、以下の2と3を指します。

1.既存商品×既存市場

2.新商品×既存市場

3.既存商品×新市場

4.新商品×新市場

1の事業展開がコロナ禍で停滞しているのであれば、生き残りのためには次の展開を検討する必要がありますが、まず優先すべきは3です。既にある商品を活用するので、新商品の開発が必要な2に比べると、時間的にもコスト的にもハードルが低くなります。4は商品も市場も、どちらも新規なので一番リスクがあります。

3の展開を考えるとき、自社の既存製品が、他の商品やサービスの「代替品」にできないか考えてみることが有効です。

例えば、カルビーのフルグラは、発売当初は「シリアル食品市場」向けに展開しましたが、コーンフレークなどとの過当競争に陥り、苦戦していました。そこで同社は、フルグラを「シリアル食品」から、パンなど朝食の代替品と位置づけ、「朝食市場」に展開しました。フルグラにヨーグルトをかけて食べるという新しい食べ方を提案し、フルグラ単体ではなく、ヨーグルトとの併用で新たな朝食として訴求し、大ヒットしました。

湖池屋は、昨今の、主食と間食の境界線があいまいになっている食生活の変化を捉え、おやつや間食の「食事代替化」を意識してスナックを再定義しました。食事として満足してもらえる本格料理系お菓子を発売して話題を集めています。

使い捨てプラスチックへの風当たりが強まる中、プラスチックからの代替需要を狙い、製紙メーカーは、様々な紙製の容器包装品をリリースしています。

今絶好調のワークマンも、もともとは建設現場の作業者向けの作業着で培ってきた機能を、アウトドアウエアの代替品として位置づけ、若者や女子向けに展開して大成功しています。

下請け製造業においても、自社の既存技術が活かせる分野はあるはずです。

最近、事業再構築補助金を使った新規事業の相談を受けることが非常に多いですが、この補助金は、基本的に「新商品×新市場」を求めているので、リスクは高くなります。もちろん、その展開が必要となる局面もあると思いますが、その前に、自社の製品・サービス・技術で代替可能な市場や、他社製品はないか、検討してみることは有効です。

Vol.27

2021.8.14   「中小企業・小規模企業白書」のコロナ対策を読み解く

 

2021年版の「中小企業・小規模企業白書」において、コロナ禍における中小企業・小規模事業者を取り巻く環境変化と対応について分析をしています。

主な内容として、

・自社の財務状況を把握し、事業環境の変化に合わせた経営戦略を立てていくこと。

・デジタル化の推進に向けて、デジタル化に積極的な組織文化を醸成したり、業務プロセスの見直しなどに、積極的に経営者が関与して推進していくこと。

などが具体的に書かれています。

また、環境変化に対する様々な企業の対応事例も参考になります。環境変化に柔軟に対応している中小企業は、コロナ禍をきっかけとして、既存商品やサービスの見直し、新商品やサービスの開発、SNSを用いた宣伝広告などに積極的に取り組んでいます。具体的な戦略としては、以下の9つを挙げています。

1.地元需要の掘り起こし

2.既存商品・サービスの提供方法の見直し

3.販売対象の見直し

4.移住や起業

5.新たな商品・サービスの開発

6.事業分野の見直し

7.オンラインツールの活用

8.事業者間連携

9.支援機関の活用

この9つについて、企業の取組み事例を30件ほど紹介しています。

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/2021jirei.pdf

これらの事例は、新たな展開を図る上で有効な資金調達であるコロナ対応の「事業再構築補助金」を活用する際に参考になります。最大8000万円の「事業再構築補助金」の通常枠は、1次募集の結果が採択率30%程度という難易度であるため、公表されている審査項目に沿って説得力のある事業計画を策定する必要があります。

・自社の事業内容とコロナ禍における現状を整理する。

・自社の強み、弱みと、外部環境の機会、脅威を整理する。

・自社が事業再構築に取組む必要性を示す。

・新たに取組む事業内容は、どのようなコンセプトで、だれに、何を、どのように販売するのか   を示す。

・その市場ニーズが確かに存在していること示し、市場にどのようなアプローチするかを示す。

・成果目標としての売上計画と、そのために必要な設備投資計画を示す。

・計画を遂行する上での課題やリスクを挙げて、対応策を示す。

大きな流れはこの通りですが、申請書を読む審査員の立場で書く必要があります。補助金の審査員にとって、それぞれの申請書は初見です。また、数多くの申請書を限られた時間で読みます。申請者の事業内容を詳しく知りませんので、初見でもわかりやすい内容にすることが重要です。申請書を作成する上で、「中小企業・小規模企業白書」の取組み事例を参考にしてもいいでしょう。

Vol.26

2021.7.18     唐揚げ専門店が過当競争に陥る要因

 

唐揚げ専門店が全国で急増中で、「唐揚げバブル」のような様相を呈しています。ある調査会社によると、テイクアウトを含む国内の唐揚げ店市場規模は、2017年の約400億円から、20年は1000億円を超えたと言われ、まだまだ成長中です。

 外食大手も続々と参入しています。

・すかいらーくHDは、唐揚げ専門店「から好し」を213月末までにガストのほぼ全店に併設。

・ワタミは「から揚げの天才」の出店を206月から本格化させ、1年で約100店舗を出店。

・とんかつ専門店かつやのアークランドHDは、「からやま」と「からあげ縁」を展開。

・モンテローザは「からあげの鉄人」、しゃぶしゃぶの木曽路は「からしげ」を展開。

唐揚げに限りませんが、マスコミが「大ブーム」とあおると、新規参入業者がどっと押し寄せます。すると、既に展開中の企業はシェアを奪われないように、急速に店舗網を拡大します。結果的に、すさまじい「カニバリゼーション」が始まって客を奪い合い、似たような店が乱立して、その業態の「価値」も急低下していきます。外食産業などでよく見る光景です。

 5~6年前、「いきなり!ステーキ」がすごいブームとなり、「やっぱりステーキ」「カミナリステーキ」などライバルが次々と参入しました。その競争を迎え撃った「いきなり!ステーキ」は、年間200店以上の新規出店を掲げて、全国で急速に店舗を拡大しました。その後の苦境はご存知の通りです。

このような悪循環を避けるためには、「ニーズ」と「ウォンツ」の違いを理解する必要があります。「ニーズ」とは、「何かが不足していて、不足状態から沸き起こる欲求」のことです。現状に不足・不満があり、不足・不満を解消したいという心理が「顧客ニーズ」です。

それに対し、「ウォンツ」は、「ニーズを満たす特定のモノに対する欲求」です。人は不足・不満状態に陥ると、何かで不足・不満を解消したくなります。「それを解消するために、特定のモノが欲しい」という欲求がウォンツです。

例えば、「喉が乾いている」は「ニーズ」で、「喉の渇きを解決してくれる水が欲しい」は「ウォンツ」です。    

「掃除の時間を短縮したい」は「ニーズ」で、「仕事や他の作業をしている間に掃除してくれるロボット掃除機が欲しい」は「ウォンツ」です。

この2つの状態をよく理解しないで、製品・サービス開発してしまうことが多いです。以前、ペットボトルの「濃いお茶」がブームになりました。

各メーカーがこぞって「濃いお茶」に参入した結果、たちまち過当競争になりました。「ウォンツ」志向で製品開発を行うと、しばしばこのような結果になります。

それでは、「濃いお茶」のコアユーザーの「ニーズ」は何だったのでしょうか?分析してみると「ビジネスマンが会議で眠くならないため」に購入していることが判りました。この「ニーズ」をしっかり捉えていたら、「濃いお茶」に追随するのではなく、「今までにない眠気覚ましのドリンク」の開発という発想に行きついたかもしれません。これが「ニーズ」志向です。

今、「ウォンツ」としての揚げ物がブームですが、その「ニーズ」は何でしょうか?例えば、「外出自粛で、家で食事をする機会が増えたが、揚げ物は調理や片づけが面倒くさい」や、「家飲みの際、いつも居酒屋で食べていたようなつまみを食べたい」などが考えられます。

このような「ニーズ」を満たすものは、「唐揚げ」以外の食べ物でも実現可能です。しかし、「ウォンツ」として唐揚げ店が流行っているという理由で参入してしまうと、レッドオーシャンに陥りかねません。

どのような業種・業態でも「ウォンツ」だけでなく、「ニーズ」=「そのこころは?」を分析することが、とても重要です。

Vol.25

2021.7.5   「安いニッポン」を読んで価格について考える

 

価格設定の考え方は、大きく分けて3つあります。

1)商品・サービスのコストに予定利益を乗せる方法

2)競合の類似商品・サービスを参考にして決める方法

3)商品・サービスに「顧客がどの程度の価値を感じてお金を出すか」を想定して決める方法

他にも、商品ライフサイクルに合わせて変える方法(発売開始時は高価格にして後から下げる)、スーパーなどでよく使われる、目玉商品を低価格にして他の商品で稼ぐといった方法もあります。

3)は簡単ではありませんが、これに取り組まないと、「顧客提供価値を高める→単価アップ」というサイクルが回りません。また、1)と2)ばかりだと、儲けそこない(3をやればもう少し単価アップできたかも)の発生もあります。

ベストセラーになっている「安いニッポン 価格が示す停滞」(日経プレミアシリーズ新書)を読んでみました。本書では、日本の物価が国際的にみて、いかに安いか紹介しています。

・ディズニーランドの入場料や、ダイソーの110円商品は世界で最も安い。

・日本のようにワンコインで満足できるランチが食べられる国は他にない。

その他、マクドナルドのハンバーガー、回転ずし、アマゾンプライム等のサービスに至るまで、国際比較をした具体的な数字を突き付けられると、本当に驚きます。それほど多くの諸外国と比べて、日本の物価はとても安い。「なぜ日本はそんなに安いのか」著者は以下のように分析しています。

一つの要因としては「デフレ経済」。日本は、20年以上にわたってデフレが続いています。デフレ下では、売上を確保するための値下げ競争が繰り広げられることになり、それが、日本の低物価の要因であるという点。

もう一点は、コストの積み上げで物価が決まっている側面。前述の価格設定方法の1)ですね。

日本では、最大のコストである賃金がまったく上がっておらず、30年ほど伸びていません。実際に、かつてG7でトップだった日本の賃金は、いまや韓国にも抜かれています。

「賃金が上がらないから高いものが買えないし、売れない→よって値上げができない」という循環が続き、長期デフレが固定化されたため、と著者は分析しています。物価安は、ある意味では日本が先進国から転落したことを意味します。

コロナが終わったら、「安いニッポン」を享受しようとインバウンドは戻るでしょう。しかし、多くの日本人は、物価が高い海外へはなかなか旅行に行けなくなります。また、優秀な人材は高賃金を求めて海外に流出し、多くの日本人は、海外企業に安い賃金で雇われるようになってしまいます。

国はマクロ政策として、「安いニッポン」から脱する施策を考える必要があります。しかし、国だけに依存せずに、我々、個々の企業も取り組む必要がある、そんな気づきを得られる本です。

Vol.24

2021.6.21   第一回採択結果を受けた「事業再構築補助金」対策

 

6月18日に事業再構築補助金「通常枠」の採択結果が発表となり、先に発表された「特別枠」の55%に対して30%と狭き門になりました。「特別枠」は、現時点では2次募集限りと告知されていますので、要件を満たす場合は受かりやすい「特別枠」で申請するべきでしょう。

それに対して「通常枠」は厳しい結果となりました。実は、採択発表前の5月31日に、令和3年度行政レビューで中小企業庁の担当者が「1次の申請書を数百読んだが、なぜそれだけの顧客が取れるのかという点が甘く、厳しく見ると8割落第しそう」とコメントしていました。

結果的に7割落ちましたので、この点は、2次以降の「通常枠」で採択を目指すための重要なポイントと言えそうです。

そこで、当社が「通常枠」の採択支援した事例に基づいて、通常枠の採択を目指すための「市場ニーズの証明と売上計画の根拠の示し方」について簡単に解説したいと思います。

 (1)ターゲット顧客を具体的に示す

例えばリフォームであれば、当社が提案したい高額なリフォームを望む顧客は、どのような属性(家族構成、趣味など)を持つ人で、世帯収入はいくら程度なのかを具体的に書きます。

(2)対象商品・サービスの市場ニーズを証明する

新たに取り組む商品・サービスが、漠然としたニーズではなく、確かに市場ニーズがあるという証拠が求められます。フォームであれば「コロナで増えた自宅時間を充実させるために、リフォームを考えている人の予算が増えている」というような、記事、統計、ニュースなど、何らかの客観的な資料を探して載せましょう。私は住宅新聞の記事と、テレビでそのようなニュースを目にしたので、テレビ画面を写真に撮って載せました。

(3)自社の商圏でもそのニーズがあることを示す

そのニーズは自社の商圏でも同様に存在することを示します。リフォームの例であれば、地図情報システム(GIS)で自社商圏をマッピングし、例えば、リフォームできる余裕がある世帯所得800万円以上の層がこの地域に、この程度あると載せてもいいでしょう。

(4)ターゲット顧客にどのようにリーチするかを示す

単にホームページに新商品・サービスを載せたり、看板を出すだけでは集客できません。既存顧客の紹介、SNS活用、他社とのアライアンス、広告、HP集客など、集客は合わせ技です。どのように集客するかを具体的に書きましょう。

(5)売上計画の根拠を示す

集客した結果の売上計画を立てる必要があります。売上計画の根拠の示し方として、中小企業政策の「経営革新計画」を挙げます。基本的に売上は単価×数量なので、それぞれの根拠と、チャネル別(直販、代理店、ネットなど)の売上計画を載せます。シンプルですが、これで充分だと思います。以下の経営革新計画の記載例22ページを参照してください。

https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/kisaiyouryou_R3-1.pdf

Vol.23

2021.6.3   引き算型製品による差別化

 

長年、ライバル企業の製品より、機能で上回ることが良しとされてきました。しかし、機能で上回っているのになかなか売れないという声をしばしば聞きます。それに対して、最近、機能を絞ったシンプルな製品が売れています。

例えば、キヤノンのデジカメ「iNSPiC REC」。これはカメラにとって重要である液晶画面を「引き算」したシンプルなデジカメです。

https://cweb.canon.jp/camera/dcam/inspicrec/

スマホで写真を撮る場合、ポケットから取り出し、ロックを解除して、カメラアプリを立ち上げなければならず、サッと撮るにはやや時間がかかります。それに対して、「iNSPiC REC」はバッグなどに付けておき、すぐに撮影できます。製品化にあたり、クラウドファンディングで試験販売をしたところ、12時間で1,000台売れ、その後、正式な製品化後も売れ行き好調です。

アイリスオーヤマの「なるほど家電」も売れています。機能はシンプル、価格リーズナブル、品質はグッド。気持ちよく快適に過ごすための機能に絞り込み、それ以外の機能は「引き算」しています。

他にも、キングジムの「文字しか打てない電子文具ポメラ」も同じジャンルで、発売10年経ちますがロングセラーになっています。

サービスにおいてもこの考え方は通用します。理髪サービスにおいて、シャンプー、顔そり、ドライヤー整髪を「引き算」して、カットのみに絞り込み、「時短」「お手軽」「低価格」という価値を提供しているQBネットが代表例です。

「引き算型製品」の考え方はシンプルです。開発しようとする製品・サービスにおいて、製品を構成する「機能」「部品」「工程」を洗い出し、その中から何かを「引き算」する。そして、「引き算」によって生まれた新たな価値を訴求する。

わかりやすい「引き算製品」の代表例は、1979年発売のソニーのウォークマンです。当時、テープレコーダーは録音して、それを聴く、というのが常識でしたが、ウォークマンは録音機能を「引き算」することで、大幅な小型化に成功。「外出中に音楽を楽しめる」「いつでもどこでも音楽を聴ける」という新たな価値を提供しました。

「引き算型の製品開発」は、大手企業だけの考え方ではありません。むしろ、開発資金や人的資源に限りのある中小企業こそ志向すべき取組みと言えます。うまく「引き算」できれば、大手ではできない尖った製品を生み出すことも可能です。

Vol.22

2021.5.23  38億年の生命史に学ぶ生存戦略」

 

自然界での動植物の生存戦略をもとに、ビジネスの戦略を説明している本があります。稲垣栄洋さんという生物学者が書いた「38億年の生命史に学ぶ生存戦略」という本です。競争戦略の本はたくさんありますが、このような視点の類書は他になく、事例も豊富に載っていて興味深い本です。

自然界には数多くの動植物が存在し、日夜、厳しい生存競争が行われています。今現在、存在している動植物は、すべて38億年の進化の歴史を勝ち抜いてきた勝者です。この歴史の中で、動植物は生き抜くための戦略を発達させてきました。

生存のための一番のポイントは「戦いを避ける(ずらす)」ことです。自然界では厳しい生存競争を避けることはできません。だからこそ生き物たちはできるだけ戦わない道を選んでいます。

本書に、ゾウリムシとミドリゾウリムシを使った実験の例が載っています。この2種類を一つの水槽に入れて実験したところ、生き残りをかけて競い合うのではなく、ゾウリムシは水槽の上の方に浮かんで大腸菌をエサにし、ミドリムシは水槽の底の方にいて酵母菌をエサにして、共存したそうです。このような例は、多くの動植物で見られます。

ビジネスの世界でも同じです。競争戦略は、戦って相手を打ち負かす戦略ではなく、長期的には、「どうすれば戦わずに済むか」を考え抜く戦略と言えます。戦ってしまうと必ず勝てるとは限りませんし、仮に勝っても疲弊し、戦力の一部を損ないます。

今まで郊外型出店だったイケアが、渋谷、原宿、新宿に都心型店舗を出して話題になりましたが、コンセプトは「居住スペースが狭い若者が快適に暮らせるライフスタイル」の提案になっており、ニトリとはかぶらないようにターゲットを“ずらして”、どの店も非常に好調です。

家電でもヤマダ電機は郊外型が主体ですが、ヨドバシカメラやビックカメラは駅前型で、戦う場所を“ずらして”真っ向勝負を避けています。手ごわい競合とは、狙うターゲットをずらす。そして、ずらしたターゲットのニーズに応える製品やサービスをしっかり作り込む。これが重要です。

この他にも、環境変化の中でどう生き残るか、自分の勝てる居場所を確保してどう生き残るかなど、様々な生物の生存戦略の事例を説明しており、参考になる一冊です。

Vol.21

2021.5.9   既存事業と新規事業のシナジーの考え方

 

事業再構築補助金の1次公募が7日に終わりましたが、10日からすぐに2次が始まりました。この1カ月、多くの事業計画書を見ましたが、実現可能性が弱いのでは?と感じるものがありました。

成功の可能性が低い新規事業に進出して、結果的に稼働率が低い設備を抱えてしまうと、補助金で設備投資費用の3分の2が出たとしても、3分の1は自己資金なので、コロナで厳しい経営状況が、まずます厳しくなる危険性があります。

新規事業を検討する上で、既存事業とのシナジーを活かす考え方として、「既存事業の調達力や目利き力を活かした新たな販路の設定」が考えられます。仕入れて、付加価値を付けて、販売している業態であれば、仕入(入口)はそのままで、販路(出口)を変える。

 例えば、お肉屋さんが焼肉店を開業する例です。

・お肉屋さんなので肉に対する目利き力があります。

・既存の仕入れルートで、いい肉を安く仕入れられます。

・焼肉店と既存のお肉屋で販売量が増えれば、より有利な条件で仕入れることも可能です。

別の例ですが、大阪の鯖やグループは「とろさば料理専門店SABAR」を、東京、関西、東南アジアなどで19店舗展開し、サバの塩焼き、味噌煮、串カツ、薫製など、全てサバ尽くしのメニューは40品近くあります。店舗売上はコロナの影響を受けましたが、鯖やは、早くから店舗ビジネスだけでなく、サバ寿司のデリバリーや養殖業にまで取り組んでいました

 20213月、鯖やグループは、NTTドコモとの業務提携によって、ITと人工知能を活用して育てた完全養殖のサバを初めて出荷し、業界の注目を集めています。

鯖やはサバに「一点集中」し、他社が持たないサバに関する目利きやノウハウを持っているからこそ、中小企業にも関わらず、多くの大手企業から提携のオファーが入ります。このような新規事業の展開であれば、成功の可能性が高まります。

他にも、既存事業の強みを活かした新規事業展開の例として、最新の2021年版中小企業白書にも事例が載っています。

 ㈱ゲイト:魚に関する目利きという強みを活かして、新たなサプライチェーンを構築

㈱タテイシ広美社:看板製作の強みを活かして、いち早く「感染防止パーテーション」を製造

 両社の事例は、以下の中小企業白書電子版272~3ページに掲載されています。

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf

タテイシ広美社の例で言えば、今では多くの会社が感染防止パーテーションを作っていますが、まだ注目されていない段階で作ったことがポイントです。

2社の事例は、目から鱗が落ちるような内容ではありませんが、自社の強みや目利き力を活かして、他社に先駆けていち早く実行する重要性を示しています。

Vol.20

2021.4.19    新規事業のリスクを改めて考える

 

予算総額1兆円を超える大型補助金の「事業再構築補助金」が始まり、この補助金が生まれた背景を説明した中小企業庁の動画があるとのことで見てみました。

 簡単に要約すると、

OECDのデータでは、新製品や新サービスを開発した企業の割合は先進国で日本が最も低い。

・日本企業は、営業利益に対する設備投資や研究開発費の比率が低下している。

・企業の内部留保は増加しているのに、設備投資や研究開発費に充分なお金が回らないことが成長を阻害し、経済の停滞や社員の所得の低さにつながり、ひいては貧困率の上昇も招いている。

 やや因果関係に?な点もありますが、企業が新規事業をしなくなったことが、国内経済の停滞の一因になっていると中小企業庁は認識しています。

しかし、中小企業が新規事業にチャレンジするには自己資金では限界があるため、それを支援する取組みとして、今回の事業再構築補助金が始まりました。この補助金は、基本的に新市場×新製品の展開を求めています。

新規事業の類型を示した有名な「アンゾフの成長マトリックス」で考えると、「既存市場×既存製品」の市場浸透戦略によって、これ以上の成長が見込めない場合、次の展開としては、「既存市場×新製品」の製品開発戦略か、「新市場×既存製品」の市場開拓戦略です。

「新市場×新製品」は、市場も製品もどちらも新規なので、もっともリスクが高くなります。かつて、ユニクロは「野菜事業」や「シューズ事業」に進出して失敗しました。野菜とファッションでは、顧客に提供すべき価値はあまりにも遠いですが、シューズとファッションなら、シナジーが働きそうに思えます。しかし、0.5cm単位の需要予測を求められるビジネスモデルに苦戦して1年ほどで撤退。それほど「新市場×新製品」は難しい。

事業再構築補助金が始まって、様々な企業からの相談を受けていますが、新規事業の中味を聞くと、既存事業とのシナジーが見込めなさそうな計画もあり、「そんな飛び地に行って大丈夫ですか」と、助言することもしばしばです。

国が補助金を使って中小企業の経営革新を求めるのであれば、「新たな市場に向けた、新製品・新サービス」という要件のみではなく、「既存市場×新製品」の製品開発戦略や、「新市場×既存製品」の市場開拓戦略も新規事業展開の優先順位からして、認めるべきでは思います。

それでもこの補助金を使うのであれば、新規事業展開のリスク面について、充分配慮する必要があります。

Vol.19

2021.3.27   新規の成約率を上げる方法

 

前回、マネされにくい差別化の一例をご紹介しました。その後、「当社の商品やサービスでどんなやり方が考えられるだろうか」というお問合せを何件か頂きましたので、改めて解説したいと思います。

ご紹介したのは「特定顧客のニーズに絞り込んだサービスを提供し、その効能を返金保証などでコミットする」というやり方です。この方法は、マーケティング用語では「リスクリバーサル」と言います。見込み客が抱える「リスク=不安」を、「リバーサル=反転」させることです。

 見込客は、商品を買う際、大なり小なりリスクを負っています。多くの場合、購入して手に取るまで、その商品が価格に見合うかどうかわからないためです。

 ・本当に期待通りのメリットが受けられるだろうか?

・知らない会社にサービスを依頼して大丈夫だろうか?

・他にもっといい商品があるのではないか?

などの不安を抱くために、購入を躊躇し、結局やめてしまうことが多々あります。そこで、見込み客が抱くこのような不安を事前に解消できれば、購入に踏み切るための障害がクリアされ、購入する可能性が高まるというわけです。

リスクリバーサルを自社のビジネスに取り入れる最大のメリットは、「見込客からの問合せ件数が増え、成約が大幅に伸びること」です。購買の意思決定の不安や心配を取り除かれ、見込客の信頼を獲得でき、「それほど商品・サービスに自信があるのか」と、商品に対する説得力も増します。

 リスクリバーサルの代表例は「返金保証」ですが、これだけではありません。

・購入後、〇年間なら無料で修理対応します

・24時間電話でサポート可

・成功報酬払い(成果が出なかったら無報酬)

・〇〇段階までなら修正可能(美容室など請負型のサービス) などがあります。

 注意点としては、以下が挙げられます。

・自社の商品を購入するにあたって、見込客はどんなリスクを感じるのかよく考える。

・そのリスクを減らすには、どのような対応が有効で、それは自社で対応可能かを考える。

・競合商品と見比べ、ありきたりの内容になっていないか考える。

 ポイントは、精度の高い商品・サービスでなければコミットできませんので、特定顧客のニーズに絞り込んで、自社ならではの商品・サービスを作り込むことです。

Vol.18

2021.3.14   マネされにくい差別化のやり方

 

コロナウイルスが蔓延して1年以上が経過しました。今後、コロナが終息しても、市場が完全に元通りになることはないでしょうから、多くの企業が、新たな市場の開拓や新たな価値の提供を求められます。

 「新しい生活様式」のもとで伸びが期待できる様々なニーズに対して、自社の強みを活かした事業展開を求められますが、新たな市場においても、そこで新たな競争が始まります。

競争戦略の本質は「いかに戦うか」ではなく、中長期的な発想は「いかにして戦わないですむようにするか」です。同じ顧客層に対して、同じような商品やサービスを展開したのでは、競合との価格勝負の消耗戦に陥ってしまいます。

よって、競争戦略は長きに亘る消耗戦を回避できるものでなければなりません。競争相手によりも経営規模などの量的な経営資源が劣る企業(弱者)は、強者に対して、市場における絞り込み(棲み分け)を狙うランチェスター戦略の「弱者の戦略」が有効です。

 絞り込む領域としては、地域、顧客層、商品が基本です。

・地域を絞り込むことで、地域のターゲット顧客のニーズを把握でき、営業効率も上がります。

・顧客層と商品を絞り込むことで、ターゲット顧客のニーズを捉えた商品・サービス開発に経営資源を優先的に投入して、品質や機能の向上が図れます。

また、絞り込むことで、他社から模倣されにくくする仕組みを築くこともできます。ひとつのやり方は、模倣(追随)すると、自社の既存のビジネスにトレードオフが生じるようにすることです。

具体例として、今はコロナ禍でビジネス客が減少して苦戦していますが、かつて、日本経営品質賞を2度も取った、顧客満足度が非常に高いビジネスホテルのスーパーホテルを挙げます。同ホテルは、安眠を求めるビジネス顧客をターゲットにし、大阪府立大学と共同設立した「ぐっすり研究所」で、科学的に快適安眠の研究を共同で行い、ベッド、まくら、照明、飲料水などを安眠の観点から考慮して提供しています。そして、安眠できなかったら宿泊料を返金する制度を採用しています。しかし、他社は模倣が困難です。

なぜなら、他社はサービスを安眠の提供に絞り込んでいるわけでないので「安眠できなかった場合は返金」とは言えず、もちろん、安眠を含むすべての不満足に返金することなどできません。この返金制度は、初めてホテルの利用を考えている顧客に対して、「ここまでやるならゆっくり眠れるだろう」という印象を与えることでき、新規顧客の獲得に効果があります。

 このように、特定顧客の特定ニーズに絞り込んだサービスを提供し、その効能を「コミット」する(返金保証、購入〇日以内なら解約OKなど)というやり方は、模倣困難性が高い差別化策となります。

アフターコロナの新たな市場においても、模倣困難性を意識しないと、既存事業と同じように、価格勝負に巻き込まれやすくなります。

Vol.17

2020.2.13   JTBが中小企業に

 

国内旅行最大手のJTBが、資本金を現在の23億円から1億円に減資して中小企業になります。日本一の旅行業者が、中小企業になるというこのニュースは大きく取り上げられました。中小企業の定義は「中小企業基本法上の定義」と「法人税法の定義」の2つがあります。

 「中小企業基本法」では、資本金または従業員数のいずれかが以下に該当すれば中小企業です。

・製造業、建設業、運輸業、その他

 資本金および出資の総額が3億円以下、または常時使用する従業員の数が300人以下

・卸売業

 資本金および出資の総額が1億円以下、または常時使用する従業員の数が100人以下

・小売業

 資本金および出資の総額が5000万円以下、または常時使用する従業員の数が50人以下

・サービス業

 資本金および出資の総額が5000万円以下、または常時使用する従業員の数が100人以下

「法人税法上」では、以下の通りです。

・資本金又は出資金の額が1億円以下資本金5億円以上の法人等と支配関係にある場合は除く)

今回のJRBの狙いは、法人税法の欠損金繰延制度を活用した節税メリットです。法人は年度決算を行い納税しますが、赤字になった場合は、翌期以降10年間、赤字の期の赤字額と次年度以降の黒字額を相殺することが出来ます。今期、JTBは約1000億円の赤字見通しです。中小企業になると、来期以降、累積1000億円の黒字までは法人税が課税されません。しかし、大企業の場合は黒字額の50%しか相殺控除が出来ません。

例えば、今後10年間で、毎年100億円の黒字が出るとします。中小企業であれば損金繰越で全額控除され、税額は0となりますが、大企業のままであれば、50%しか控除出来ませんから、毎期50億円が課税対象となります。その他にも、地方自治体に払う地方税が、資本金により税額が変わります。

 欠損金繰延制度の優遇措置は、本来は財務基盤が脆弱な中小企業を中長期的に育成する目的です。売上1兆円を超える「大企業」であるJTBがこの制度を享受することは、日頃、中小企業診断士として中小企業の経営力向上の支援を行っている当方としては、やや釈然としない思いを抱きました。

コロナ禍で経営が苦しいとは言え、同様の対策を講じる「大企業」が増えてくると、制度の見直しの議論が出てくるかもしれません。

Vol.16

2021.1.18   コロナ禍でも伸びている業種・業態

 

先日、某TV番組で、コロナ禍でも売上が伸びている業種を取り上げていました。その中で、なるほどと思ったのは「美容整形」です。術後の顔の腫れや内出血をマスクで隠せるので、今まで躊躇していた人が施術を受けたり、海外渡航の制限で、整形技術が高くて料金が安い韓国に行けないために、国内の美容整形の需要が高まっているそうです。

コロナでマスク自体の需要は増えますが、マスクをつけた日常生活が定着することで増える需要もあるんだと改めて納得しました。

美容整形ではありませんが、私もうなずけることがあります。私は、現在、前歯を治療中で1カ月ぐらい前歯が一本ありません。通常であれば、人と会話する際にかっこ悪いので、毎回の治療後に仮歯をつけますが、今は人前に出る際はマスクをするので、その必要がありません。これによって、多少治療時間が短く済んでいます。これも似たような例ですね。

その他で、意外な需要としては「山林」です。最近、サラリーマンでも山を買う人が増えているようです。三密回避のレジャーでキャンプ需要が盛り上がり、キャンプに通っているうちに、自分の理想のキャンプ場を作りたいと思って山を買ってしまう。場所にもよりますが、東京ドーム数個の土地が50万円程度で買えるなど、サラリーマンでも手が届く買い物です。

外食は、大手も中小も軒並み苦戦していますが、唯一好調なのが「焼肉」です。利用者サイドとしては、常に換気をしているので密が気にならない点。運営サイドとしては、他の外食と違って調理加工度が低いので、スキルの高い料理人を必要とせず、パートを使って人件費を抑えられる点が魅力です。ワタミも居酒屋360店舗のうち、120店舗を焼肉店に転換すると発表しました。

IT業界では、VR(バーチャルリアリティー)環境を構築する需要が盛り上がっています。これはサービス業や小売業が、非接触の体験型サービスを展開するための需要です。不動産の内見や、スポーツ観戦などを、自宅からVR環境で体験できるようにする需要です。

上記はほんの一部ですが、新しい生活習慣の定着によって、消費者の嗜好がどのように変化したのか、これからどのように変化していくのか、よく分析することで、新たな商品・サービスを開発する余地はまだまだありそうです。

Vol.15

2020.12.15  最大1億円!! 事業再構築補助金について

 

12月8日の臨時閣議で、最大1億円の「事業再構築補助金」の創設が決まりました。今回の経済対策には、総額2兆円を超える中小企業支援の予算が充てられていますが、事業再構築補助金はその柱となります。

来年1月に招集される通常国会で予算成立後、詳細の制度設計や事務局の選定が行われ、公募開始は、おそらく3月以降になると考えられます。

 内容としては、新型コロナの影響で、従来の経営が難しくなった中小企業が、新規事業の展開や事業再構築に取り組む際の設備投資などを、最大1億円補助するものです。「生産性の向上」が強調されているため、新規事業に向けた設備投資に対して、生産性向上を目指す事業計画の策定が条件になってくると思われます。

事業再構築の例としては、製造業が既存の自社の技術を応用し、新たな機械設備を活用して、新商品の製造にチャレンジする、とか、飲食業が、宅配事業を強化するために、本格的なセントラルキッチン設備を導入するなど。

 一般的には、上記のような内容が事業再構築に当たりますが、コロナ対策という側面から、かなり幅広い内容が対象になるのではないかと思われます。

 コロナ禍は、単一事業へ依存しすぎるリスクを再認識する契機となりました。よって、このような補助金を活用して新規事業に取組むことは有効ですが、いきなり「飛び地」に多角化しても、成功可能性は高まりません。やはり自社の強みを踏まえた上での、関連多角化が有効です。

Vol.14

2020.11.13  自己成長を促すアウトプット

 

今年の年末年始は、ずっと家に籠って本の執筆をしていました。7月に「小さな会社の儲けの仕組みの教科書」を上梓しましたが、出版という形のアウトプット経験は、今回が初めてです。

 インプットは「情報を入れる」こと、アウトプットは「入れた情報を出す」ことを指します。主なインプットは「読む」「聞く」、アウトプットは「書く」「話す」「行動する」ですね。

 出版というアウトプットがきっかけで、次のアウトプットの機会が増えました。具体的には、セミナーの依頼や、専門誌からの執筆依頼です。執筆は、3つの専門誌からご依頼があり、2つは単発読み切りでしたが、某金融機関の月刊誌から半年間の掲載依頼を頂きました。

 このように、アウトプットが次のアウトプットの機会を生み、次のアウトプットをよりよいものにするため、新たなインプットを行う。アウトプットとインプットは循環しているんだ、と改めて実感しました。

 昨年ベストセラーになってずっと気になっていた「アウトプット大全」(サンクチュアリ出版)を読んでみました。著者は、精神科医で作家の樺沢紫苑氏です。

樺沢氏は10年連続で年間2~3冊の本を書き、メルマガを13年間毎日発行し、SNSも毎日更新するなど、驚異的なペースでアウトプットをしながら、基本的に18時以降は働かず、月10本以上の映画鑑賞、週5回のジム通い、10回以上の飲み会、年30日以上の海外旅行など、遊びもしっかり行っています。

樺沢氏の調査では、約9割のビジネスマンはインプット中心の学びや働き方をしており、効率が悪いそうです。そして、インプットとアウトプットの黄金比は3対7で、アウトプットをしないと自己成長しないと述べています。

著者は精神科医の立場で、脳が記憶する仕組みからアウトプットの法則を説いており、説得力があります。各ページは図解入りで、直感的に理解しやすく、すぐに実践できる具体的なノウハウ満載です。

ウイズコロナはまだまだ続き、在宅時間はたっぷりあります。「書く」「話す」だけでなく、「行動」もアウトプットです。アウトプットを実践し、自分を能動的に変える上で、とても参考になる本です。

Vol.13

2020.11.13  コロナで、震災以上の意欲低下

 

日経MJの11月2日付けの記事で、非常に気になる調査結果が出ていました。JTBコミュニケーションデザインが「ウイズコロナ時代のモチベーション調査」を行い、620人から回答を得ました。比較対象は、1034人から回答を得た「東日本大震災後のモチベーション調査」です。

 「ウイズコロナ時代のモチベーション調査」で、まず仕事環境に関しては、

・半数近くが、所属する会社の業績が悪化したと回答。

・給与水準が悪化した回答は3割。

「コロナ禍以降も頑張ろうと思う」という項目に対しては、

・「あてはまる」「ややあてはまる」と、肯定的な回答は7割。

・東日本大震災後の調査に比べると、「頑張ろうと思う」への肯定的回答は7ポイント低下。

東日本大震災もコロナ同様、社会に大きな打撃を与えましたが、仕事へのモチベーションの点では相違があります。震災後は、「復興に向かって自分の仕事に取組もう」という機運がありましたが、ウイズコロナの生活を強いられる今回は、目指すべき目標を失っている人も多いようです。

アンケートでは、「今まで会社のビジョンや理念はきれいごとと思っていたが、これからはそのような気持ちを持って働くことが大切と思う」というコメントが見られました。コロナ禍で不安な生活の中、心理的なよりどころを求める意識が高まっているようです。

「所属する会社のコロナ禍への対応について」という項目に対し、

・総合的評価では4割が好意的、2割が否定的。

・東日本大震災後の調査では、5割が好意的、1割が否定的だったので、評価が悪化。

アンケートの中には「会社の冷たさが身に染みた。自分を犠牲にして会社に尽くすのは基本的にもうやめる」という厳しい回答もありました。今回の調査から、多くの社員が目標を見失い、仕事への意欲が低下している現状がうかがえますので、経営者は、苦しい現状の中でも「自分たちの仕事の意義やビジョン」を発信し、管理職は、部下とコミュニケーションをとって「働く意味」をきちんと伝達すべき、と言えそうです。

Vol.12

2020.10.27   LIVE配信する弁当店

 

ユニークな取組みで売上が爆上げしている弁当店があります。東京都亀戸にある個人経営の弁当店「キッチンダイブ」です。緊急事態宣言が続いていた5月の売上が、対前年1.5倍以上に増えました。

この店は、「毎日満足の200円弁当」「24時間営業」「挑戦者求む1キロ弁当」など、様々な取組みで、以前から地元で人気の店でした。更に売上を伸ばしたのは、店内の様子を24時間ライブ配信してからです。

ライブ配信のメリットは大きく3つあります。

1つ目は、顧客の多くが事前にライブ配信を見て、店内が空いているのを確認してから来店するようになり、密を防ぐ対策になったこと。

2つ目は、来店前に顧客が「どんな弁当が店にあるのか」を確認できること。1日で1000食以上を売る人気店なので、自分の好みの弁当が売り切れてしまうこともあります。

3つ目のメリットは、万引き抑止です。生配信の視聴数が多いので、入れ替わりで多くの方が店内を見ています。つまり、多くの視聴者が警備員の代わりに見張っていることになります。この取り組みで万引きの数が大幅に減りました。

 売上が伸びて利益が増え、万引きというロスが減って利益が更に増えました。弁当店という極めてアナログな業態ですが、リアル店舗の充実体験(激安・大盛弁当)とネットの体験、ITを積極的に活用して、リアルとネットの満足度を高めて、顧客のリピート率と、新規顧客の獲得を進めた、いい事例だと思います。

Vol.11

2020.10.13   星野リゾートの「倒産確率」とは?

 

先週、東京商工会議所で半年ぶりにリアルセミナーを担当しました。4月以降はセミナーもすべてオンラインでしたので、参加者の反応がわかるリアルはいいなと実感しました。「ウイズコロナ時代を生き抜く、小さな会社のランチェスター戦略活用法」というタイトルがタイムリーだったのか、募集後すぐに満席となり、当日のアンケートも非常に好評でした。

 終了後、数名の参加者の方と話をしましたが、ウイズコロナの今をどうサバイバルするか、模索し、試行錯誤している方が多いと感じました。企業業績は、同じ業界でも企業によって明暗が分かれています。

JR東日本は、20213月期の決算が約5千億円の赤字見通しで、初めての赤字決算ですが、同じ運輸でもネット購買による配送需要の拡大で、ヤマトや佐川急便の業績見通しは改善しています。

 外食は軒並み苦戦ですが、持ち帰り需要をうまく喚起して、ケンタッキーフライドチキンは業績好調です。

小売業でも、大手百貨店は業績が悪化していますが、パソコンや冷蔵庫などが伸びて家電量販店は好調、巣ごもり需要をうまく取り込んだニトリの半期決算は過去最高益です。

このように同じ業種内での業績二極化は最近顕著で、この動きは中小企業でも同様です。新しい生活様式に対応した需要を、積極的に取り込む動きも活発になってきました。JR東日本では、駅の空きスペースにテレワークの個室を設置し、洋服の青山でも店舗の一部を、テレワークのスペースとしてレンタルします。

 大手や中小に関わらず、このような新たなアイデアを創出するためには、社員を巻き込み、「当事者意識」を持ってもらう工夫が重要です。

ひとつのヒントとして、星野リゾートの星野社長の取組みをご紹介します。星野社長は、5月の社内ブログで自社の「倒産確率」を掲載しました。倒産は現金がなくなることで起こります。現金残高を左右するのは、「売上高」「コスト削減」「資金調達」の3つ。その3つを掛け合わせて、3の3乗で27のシナリオを策定し、そのシナリオの中で、倒産可能性の高いコースを示して倒産確率を出しました。

 何の根拠も示さずに、当社は大丈夫と経営者が言っても、逆に社員は不安に陥ります。星野リゾートでは普段から社員に、自分で発想し、自ら行動するよう求めているため、社員が今、知りたいだろうと思う情報として「倒産確率」を公開しました。すると、社員から倒産の試算方法の質問が殺到し、倒産を避けるために、3密を回避した上で、価値を高めるためのアイデアが次々と出されました。

・三密を避けるためのビュッフェの提供方法

・テーブルやいすなどの備品に対する様々な抗菌のアイデア

・コロナでも可能な非日常体験のアイデア(都心のホテルの地上160Mの高さでストレットを楽しむ「天空深呼吸」など)

 このような取組みが寄与して、45の施設の内の30施設において、8月時点で、客数を前年並みまで回復させることができました。

 この取り組みは、健全な危機感を醸成し、会社の「他人事」を、社員自らの「自分事」にするための、いい事例です。外部環境(コロナ)はすべての会社に共通ですが、それをどう打開するという点で、経営者の意思と工夫が問われます。

Vol.10

2020.9.25   「縦割り打破」への期待

 

菅政権が発足し、報道各社の調査で極めて高い支持率になっています。個人的には、菅総理が打ち出した「省庁の縦割り打破」に期待しています。民主党政権下でも、「事業仕分け」という同じような取組みがありました。振り返ってみて、「2位ではダメなんですか」というフレーズは印象に残っています。官僚の天下り先を「見える化」するなどの成果はあったかもしれませんが、国民にとっては、自分の身近なところで、その成果を実感できませんでした。

 それに対して、お役所の縦割り行政については、我々は、多かれ少なかれ、思い当たることがあると思います。個人的にすぐ思ったのは、「企業の納税処理」です。

 私の会社は、この6月末で1期目が終わり、おかげさまでそれなりに利益が出たので、法人税を納めました。前の会社を辞めてしばらくの間は、個人事業でコンサルタントをしており、その間は、自分で記帳して、納税も自分で行っていましたが、法人化してからは会計処理も煩雑になるので、税理士に依頼しました。

 法人税は「法人税:国が徴収」「法人県民税:県が徴収」「法人市民税:市が徴収」に分かれています。申告は、税務署、県税事務所、市税事務所と3つの事務所にそれぞれ提出しなければなりません。

 本来なら、国として一本の法人税率を設定して、計算を簡素化し、申告処理を簡単にすべきです。県や市などの地方自治体へはそれぞれの税額に応じて、国から後で分配すれば問題ないでしょう。これは縦割り行政の典型的な例の一つです。

 企業に勤める従業員の納税も「源泉徴収」は税務署、「住民税」は在住の市町村の市税課で、企業は従業員の納税処理を代行するために、非常に多くの手間が掛かっています。そのために、大手企業ではそれらの計算や納税のために多額のシステム投資を行い、中小企業では、税理士に多くの業務委託費を払っています。

 「納税」は企業の重要な義務であり、社会に価値を提供して得た対価である利益に応じて、しっかり負担しなければなりません。しかし、「納税処理」という事務作業自体は、付加価値を生む業務ではありません。このような付加価値を生まない作業は簡素化し、窓口を一本化すべきです。

 お役所の縦割り行政は、それぞれの役所の部分最適が全体最適を阻害している例ですが、これは企業経営でも散見します。

 例えば、従業員は個人や自部門の目標達成のために、日々、現場仕事に従事しているため、どうしても短期的かつ部分最適な思考に陥りがちです。しかし、経営者は中長期的な視点で、会社の全体最適を追及しなければなりません。

 経営者と従業員の認識がなかなか合わないのは、このような理由が大ですが、企業にとっての最適を念頭に置いて、自らの行動を選択できる「全体最適思考」を持つ社員が多い企業は強い企業と言えるでしょう。

Vol.9

2020.9.13  コロナ禍における提供価値の転換

 

コロナ禍と言われるようになって半年以上が経過し、様々な企業において、低迷する本業の売上を補うための取組みを行っています。特に密集・密接・密閉の「3密」が発生しやすいビジネスにおいては、コロナの収束がしばらく見通せない中、何も手を打たなければ、いつまでも展望が開けません。

 例えば、カラオケは典型的な3密業態です。カラオケチェーン「ジョイサウンド」は「みるハコ」というサービスを強化しています。これはカラオケ店の音響設備を活かし、大音響でライブビューイングを楽しむサービスです。音楽事務所と提携し、「みるハコ」限定のイベントなども企画しています。

 このほかにも、カラオケルームを「テレワークの拠点」として提供したり、「ひとりカラオケ」に注力している店もあります。

 これらのサービスに共通しているのは、カラオケの本来の価値である「大人数で歌って、盛り上がって、ストレス発散」という価値が3密回避で提供できない中、カラオケ店の保有資源である「音響設備」や「防音の個室」を活かして、今までとは別の価値を提案していることです。

 他にも、こんな事例があります。

HISタイで、アイリスオーヤマの家電を販売」

これは、今まで培ってきたグローバルネットワークを活かし、旅行者のみならず、世界に進出したい企業の海外進出を支援するサポートサービスの展開です。

 「タクシーで、配食サービスや買い物代行を実施」

「自宅待機中のアパレルスタッフが自宅からスタイリング写真をSNSに投稿し、オンライン接客を実施」

 なども、コロナ禍によって自社の製品やサービスの本質的価値が損なわれても、「自社の強みと保有資源を活かして、今までとは別の価値を訴求する」という考え方ですね。

 3密対策を施して本業に集中し、売上の回復が見込めるならばそれでも構いません。しかし、それでは展望が開けないのであれば、本業を継続しつつ、稼働率が下がった既存の資源や強みを活かして、別の価値提供ができないか検討すべきです。

 このような発想をするときに重要な点は、経営者ひとりで考えず、従業員を巻き込んで、アイデアを募ることです。今回のコロナ禍は、ピンチだけではなく、自ら会社に新規事業を提案するような人材を育成する、いいチャンスとも言えます。

Vol.8

2020.8.30   「中小企業白書」には経営のヒントが満載

 

「中小企業白書」はご存知でしょうか?

中小企業庁が毎年5月に発表している中小企業の最新動向を調査・分析した白書です。名前は聞いたことはあるけど、読んだことがない方がほとんどではないでしょうか。実はこれが優れものなんです。書籍版は3520円もしますが、中小企業庁のサイトで無料で公開しています。

 2020年版の白書では、今、中小企業に期待される「役割・機能」や、中小企業が生み出す「価値」に着目して、詳細に調査・分析をしています。また、発行の5月時点ではありますが、新型コロナウイルス感染症の影響や、中小企業における具体的な対応事例なども掲載しています。

 中小企業白書の特徴としては「エビデンス」に基づく分析がなされていることです。よって、説得力があります。

 例えば、「賃上げ」と「利益拡大」を両立するためには、「付加価値の増大」が必須ですが、その目的で新たな事業領域に進出した企業の約4割で、販売数量・単価がともに向上したこと。一般に、販売数量と販売単価は、トレードオフの関係と考えられていますので、ともに向上していることは意外ですね。

 また、異業種や大学と連携して新たな技術開発や製品・サービス創出を行った中小企業が、生産性が大きく向上させていること。

 自社の製品・サービスの優位性が「価格に反映されていない」と考える企業が約半数あるが、様々な手段で優位性を顧客に発信していく取組を行うことで、価格競争からの脱却し、発注側企業との取引条件の改善がに成功していること。などを豊富なエビデンスや、実際の取組み事例とともに紹介しています。

非常にボリュームがありますので、まず目次を見て、興味がある箇所を読むだけでも、経営のヒントを得ることができます。

Vol.7

2020.8.17   成功から学ぶ、失敗から学ぶ

 

先週15日は75回目の終戦記念日でした。先の戦争では一般市民を含めて日本人の300万人が亡くなりましたが、長い日本の歴史において、最も悲惨な出来事と言えるでしょう。

 なぜそんな戦争に突入し、悲惨な結末を迎えるに至ったかを解説した名著に「失敗の本質」があります。以前、小池東京都知事が「座右の書」として挙げ、注目されたこともありましたので、読まれた方も多いでしょう。

 現在、我々は「コロナウイルスとの戦争」に直面してします。想定外の事態に直面し、対応において迷走していると言える点も多々ありますので、この本から学べることは多いのではないかと思います。

 「失敗の本質」では、敗因を日米の「保有資源や技術の差」以外の要因に注目しています。「保有資源や技術の差」は確かに敗因の一つではありますが、この本では本質的な要因として、日本人の思考方法やリーダーシップ論、組織論にフォーカスしています。

 「長所」は「短所」の裏返しという側面があります。例えば、「失敗の本質」では「判断が情に左右されてしまう日本人の習性」を指摘しています。しかし、これは「情に厚い」という日本人の「長所の裏返し」と言う見方もできます。

 日本人特有の「集団の空気を重んじる」「波風を立てない」「忖度をする」といった習性は、共生社会を保ち、争いを意図的に避けるという点では利点となっていました。しかし、そのような日本人の思考法や精神性が敗戦の一因となったわけです。コロナとの戦争において同じ轍を踏んではなりません。

 それでは、経営においてはどうでしょうか?

経営における失敗とは、新規事業展開や投資効果の見誤りであったり、その結果としての赤字転落であったり、最終的には倒産を指します。要因として、慢心や油断、おごり、知識不足から生じる失敗も確かにあるでしょう。しかし、「よかれと思って行ったこと」が、逆の結果につながってしまうこともあります。

 例えば、積極的にリーダーシップを発揮しようとした結果として、人の意見に耳を貸さないワンマン経営に陥るようなケースだってあります。このように、経営においても、長所と短所は裏返しという側面もあります。

「成功から学ぶ」ことと、「失敗から学ぶ」こと、学びには2種類あります。大切なのは、この2つのどちらもが必要だということです。持続的な成功を目指すなら、リスクを最小化しながら、攻める。つまり「守り」と「攻め」の、どちらも欠かかすことができません。

Vol.6

2020.7.29   コロナ対策のボトルネックは?

 

コロナは一向に収束の見通しが立ちませんが、22日から政府のGOTOキャンペーンが始まりました。冷え込んでいる観光需要の喚起策ですが、東京は感染拡大の状況をみて除外となり、医師会は我慢の4連休にして欲しいと言ってました。なんかちぐはぐですね。

 なぜでしょうか?

シンプルに考えれば、コロナが陰性の方は、旅行でもイベントでも、どんどん参加すればいいのです。今は、誰が陰性で、誰が陽性かわからないので、一律自粛とか、片や旅行を喚起し、片や我慢を!などの対応になっています。

 ビジネスでよく聞かれる言葉で「ボトルネック」という言葉があります。

「ボトルネック」とは、全体の成果に影響する「最も問題となる箇所」のことです。元々はワインボトルなどの瓶の首にあたる1番細い箇所を指す言葉です。瓶の首が、細ければ細いほど、注ぎ出る液体の量は少なくなります。

 かつて、物理学者のゴールドラット氏が、有名なビジネス書「ザ・ゴール」でボトルネックを取り上げました。世界的なベストセラーになったので読んだ方も多いと思います。

ゴールドラット氏は、TOCTheory of Constraintsの頭文字)と呼んで、ビジネス上の制約条件(=ボトルネック)を解決することで、効率的に問題解決が実現することを示しました。

 沈みゆく船の上では、全力を挙げて穴をふさぐこと以外に、各船員が自分の持ち場で普段の仕事を一生懸命しても意味がありません。このように、制約条件に着目しない作業は意味がなく、全体効率を妨げる危険性があります。

 私は日本のコロナ対策のボトルネックは「PCR検査体制の脆弱さ」にあると考えます。各国のPCR検査能力は、人口千人当たり、アメリカ97人、イギリス89人、ドイツ70人、韓国24人、日本5人です。ニューヨークはそこら中で無料検査を実施しており、数分で簡易検査の結果が出ます。そうして、今では死者をほぼゼロにすることに成功しました。

 例えば、日本でもGOTOキャンペーンをやるのであれば、「旅行に行く2日前までにPCR検査を受ける」などの措置が取れるのであれば、東京を除外する必要はないでしょう。

 日本では、あれだけの巨額な補正予算を組んでおいて、どう考えてもPCR検査への予算配分が適切とは思えません。コロナ対策のボトルネックと言える「PCR検査体制の脆弱さ」の要因は、省庁縦割りの予算措置でしょうか? それとも、トップのリーダーシップ力でしょうか?

 我々もコロナ禍の中、ビジネスを展開させるためにボトルネックを特定し、改善する必要があります。

・ビジネスのオンライン化を進めるためのボトルネックは?

・課金の仕組みを変えるためのボトルネックは? などです。

 皆さんの会社の「業務プロセス上のボトルネック」は何でしょうか?「社長!それはあなたです」などと、社員に言われないことを祈ります。

 「ザ・ゴール」は全てのビジネスマン必読の書だと思います。小説版は700ページあり、読むのはそれなりに大変(それでもあっと言う間に読めます)ですが、マンガ版でも充分です。マンガ版でも本質を理解できて、1時間程度で読むことができます。

Vol.5

2020.7.17  長寿企業に学ぶ

 

今回のコロナ禍は、会社経営にインパクトを与える、非常に大きな外部環境の変化です。「こんな経験は初めて」と言う方も多いことと思いますが、100年というスパンで見ると、今までにも会社経営に対する様々な危機が訪れています。

例えば、1923年の関東大震災、その後の第二次世界大戦、石油ショック、バブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災などです。為替の変動など、もう少し小さなものまで入れると、7年に1回ぐらいのペースで会社経営に影響を与える危機が訪れています。

日本には創業100年を超える長寿企業が3万社以上ありますが、今回のコロナ禍に際し、100年間の様々な危機を乗り越えてきた長寿企業はどのように対応しているのでしょうか。

 長寿企業に対する研究を手がけている「一般社団法人100年経営研究機構」は、この5月、創業100年を超える企業の経営者にアンケートを実施しました。社員数と売上高の中央値はそれぞれ30人と6億円で、大半は中小企業です。

 新型コロナの影響で「売上高が5割以上減少」と答えた企業が40%、「1割から5割未満の減少」も約35%でした。長寿企業は地域に根ざして、厚い顧客基盤を持っていますが、コロナ禍が及ぼした売上への影響は、一般企業と同じです。

 一般企業との大きな違いは、「資金繰り」です。

「現在の資金繰りで会社をどの程度継続できるか」との問いに、27%が2年以上、33%1年、20%が半年程度、と回答しています。約8割の企業が当面の資金繰りにメドをつけており、その中で6割の企業は1年以上と答えています。

 それに対して、別のアンケートでは、中小企業の4割以上が「資金繰りのメドが3カ月以内」と答えています。以上から、一般的な中小企業と長寿企業の大きな違いは「財務の安定性」と言えそうです。

 この違いは、長寿企業は長年にわたって「内部留保」を蓄積している上に、日頃から金融機関と密接な関係を築いているケースが多いためと言えます。

 「内部留保」について考えてみましょう。「内部留保」を蓄積するためには、「継続的に長く儲ける」ことが必須です。どうすれば長く儲けられるでしょうか?

短期的には、コスト削減は即効性があり、結果を出しやすいことは事実です。しかし、例えばコスト削減に成功した次年度からは、そのコストの状態がベースになるため、更にコストを下げることで、利益を出し続ける事は困難です。

 やはり、利益の源泉は売上であり、中長期的には売上を増やさないと長く儲けることはできません。そんな中で、売上を増やす方法の一つは「価格を上げること」です。「それが出来るぐらいなら苦労はしないよ」という返事が聞こえてきます。

 ポイントは「どうすれば価格を上げても、現在の顧客との取引を維持できるのか」を考えぬくこと。これが、長く儲け続けるために必要です。それには「顧客に提供する価値」を見直し、磨き上げる必要があります。それに長年取り組んできた企業は、内部留保の積み上げに成功し、長寿企業へとつながっていると言えそうです。

Vol.4

2020.6.27  7割経済にどう対応するか

 

コロナ「第2波」への警戒はあるものの、世の中の経済活動が徐々に戻ってきました。しかし、すぐにコロナ以前の状況に戻るわけではなく、制約が多い中での経済活動再開となります。

ひきつづき、個人や企業によって感染防止の様々な措置が取られるため、経済全体の需要が3割程度減少して「7割経済」になると言われています。それでは、この「7割経済」はどれくらい続くのでしょうか?

100年前のスペイン風邪の収束には2年かかりましたので、少なくとも、あと2~3年間は続くとする見方が大勢です。よって、あらゆる企業が「7割経済」に対応しなければなりません。つまり需要がコロナ前の7割であることを前提として、利益を出せる体制をつくるということです。では、どうすれば良いのでしょうか?

拙著(小さな会社の儲けの仕組みの教科書)にも書いておりますが、会計的には、利益を増やすための基本的な打ち手は次の4つです。

1)単価アップ

2)数量アップ

3)固定費ダウン

4)変動費ダウン

例えば、この5月のコンビニの売上額は対前年で10%減りました。自粛の影響で自宅で過ごす人が増え、食品などのまとめ買い需要が伸びて、客単価は12%増加しました。

しかし、客数が2割減ったので、結果として売上は10%減りました。

それに対して、マクドナルドも5月は同様に客数が2割減りましたが、客単価が45%増えて、売上額としては対前年で15%増えました。ドライブスルーで家族分をまとめ買いする購買が伸びて客単価が増えたことが大きな要因です。マクドナルドがここ数年、ドライブスルーの渋滞解消や、店頭注文や商品渡しにIT導入を進めてきた投資が、人との接触を最小限にし、奏功しました。

コンビニとマック、5月はともに客数は2割減りましたが、客単価で明暗を分けました。マックのドライブスルーやIT化の取組みは、コロナを予見したものではありませんが、今後はこのような売上=数量×単価における、数量(客数)減を前提とした対応が急務です。

 数量減への対応策としては、製造業であれば、既存商品の数量減によって生まれた生産余力を活かして、何を作るかもポイントになります。シャープがマスクを作ったのはその一例です。

Vol.3

中小企業が設備投資を行った際の税制措置について

図(クリックすると拡大します)

 1.二つの設備投資促進策

 国は中小企業の設備投資を促進するため、設備投資に対する税の優遇制度を拡充しており、20199月現在で、新規取得した設備にかかる税金を減免する制度が二つあります。「経営力向上計画」と「先端設備等導入計画」ですが、いずれも、設備投資によって生産性が向上する計画を作成して認定を受ける必要があります。
 
二つは認定する主体が違いますが、計画書内容は重複する部分も多く、税制措置や金融支援、補助金の優先採択などメリットも似ています。税制措置の面で見ると、経営力向上計画は国税(法人税)の軽減で、先端設備等導入計画は地方税(固定資産税)の軽減となります。

 2.経営力向上計画

 「中小企業等経営強化法」に基づく制度で、経営力向上のための人材育成や財務管理、設備投資などの取組を行い、生産性を年1%以上向上させる計画を策定します。提出先は経済産業省で、申請書は3枚程度なので、大きな負荷はかかりません。認定を受けると、法人税優遇の他に、政府系金融機関からの低利融資や信用保証、ものづくり補助金やIT補助金の審査の際に加点されるというメリットもあります。

 3.先端設備等導入計画

 「生産性向上特別措置法」に基づく制度で、中小企業が設備投資を通じて労働生産性を年平均3%以上向上させる計画を策定します。提出先は設備を導入する事業所が所在する市町村です。生産性向上の要件は、経営力向上計画よりも厳しいですが、申請書は2枚程度で、こちらも大きな負荷にはなりません。認定を受けた場合は、固定資産税の減免や、金融支援、補助金審査の際の加点などのメリットを受けることができます。

 二つの制度の比較は図の通りです。設備投資を行う際は、この二つの認定を受けることで、法人税と固定資産税の両方の減免を受けることができますので、設備投資を計画する際は、認定の取得を検討しましょう。

Vol.2
生産財における重点顧客戦略について その1

図A(クリックすると拡大します)

図B(クリックすると拡大します)

 1.「パレート型」「ロングテール型」

 法人対象の生産財ビジネスにおいては、売上形態が「パレート型」か「ロングテール型」かの2つに分かれます。(図A「パレート型」はいわゆる「パレートの法則」が該当するものです。「パレートの法則」はパレートという経済学者が提唱した法則で、「主要な2割によって全体の8割が構成される」という内容です。ビジネス以外にも適用されますが、ビジネスであれば「主要な2割の顧客によって売上全体の8割が構成される」のように表現されます。生産財のビジネスを行っている多くの企業はパレート型と言えます。(図A)

 対して「ロングテール型」は、「上位企業が全体売上に占める割合が低く、小口の取引先の集まりによって大きな売上が構成される」売上の形態です。グラフにすると恐竜のしっぽ(テール)のような形状になるためにロングテールと言われます。「ロングテール型」ビジネスはネット販売が盛んになるにつれて脚光を浴びました。実店舗では店頭に並べる商品数に限界がありますが、ネット販売であれば商品数の制限はありません。アマゾンが代表例ですが、生産財においても製造現場で必要な工具や部品をネットで扱うモノタロウなどが該当します。

 「ロングテール型」はネットで完結しますが、顧客の業務課題の解決を、営業マンによる人的販売によって、自社の製品・サービスを活用して提案する企業は「パレート型」の売上構成になることが多いです。「パレート型」は、上位顧客が大きな売上を占めるため、ターゲット顧客の選定と攻略方法が非常に重要となります。

2.顧客の格付け

 「パレート型」のビジネスにおいては、顧客の格付けが重要です。全体売上を拡大するためには、限られた営業資源を重点顧客に対して優先的に割り当て、顧客生涯価値を最大化させる必要があります。そのためには、ターゲット顧客の選定基準を決め、拡販余地が大きな重点顧客に営業資源を集中させる必要があります。営業マンは、自分が訪問しやすい顧客を優先してしまう傾向があるため、基準を決めて重点顧客を選定する必要があります。

 重点顧客の選定方法として「顧客の格付」があります。従来からよく行われている顧客のABC分析は、顧客への売上高が高い方から並べて、例えば、上位20%Aランク、中位40%Bランク、下位40%Cランクとするやり方です。しかし、この方法には問題があり、自社の売上高の情報のみでは、拡販余地(購買のポテンシャル)が捉えられません。例えば、図Bのケースで、顧客A社、B社、C社に対する自社の売上は全て年間100万円です。それに対し、顧客A社、B社、C社は、競合他社から、それぞれ、400万円、100万円、30万円購入しています。つまり、同じ年間売上100万円でも顧客内シェアが異なります。この3社を比べると、最も拡販余地があるA社が優先すべき顧客となります。顧客内シェアを考慮した格付け方法として、ランチェスター式ABC分析があります。 

生産財における重点顧客戦略について その2

図C(クリックすると拡大します)

図D(クリックすると拡大します)

 1.ランチェスター式ABC分析とは何か

 ランチェスター式ABC分析は、ランチェスター戦略の実務体系の一つです。一般的な顧客ABC分析と異なり、顧客の需要規模と顧客内シェアの2軸で顧客の格付けを行います。具体的には、顧客の需要規模3分類と顧客内シェア4分類で合計12に分類します。

 顧客の需要規模3分類については、対象顧客を全て並べ、各社の需要規模を記入します。需要規模とは購買力のことで、例えばIT機器の販売会社であれば、それぞれの顧客に対して、自社がIT機器を販売している金額だけでなく、競合のX社やY社から購買している金額、つまり、顧客ごとのIT機器に関する総需要額を記入します。そのためには購買状況を調査することが必要になります。

2.ランチェスター式ABC分析の例

 図Cはターゲット顧客10社の簡単な表ですが、ターゲット顧客が何社であっても考え方は同様です。ランチェスター式ABC分析はラージABCとスモールabcdに分かれます。ラージABCは通常のABC分析と同様、10社の需要合計に対する各社の構成比を求めて、構成比の累計を算出し、上位70%までを大口顧客A95%までを中口顧客B、それ以下を小口顧客Cとします。図Cの例では、Aが3社、Bが4社、Cが3社です。

 次はスモールabcdです。各顧客を全て自社で独占していない限り、競合他社からも購買しています。自社が販売している商品の売上はわかるので、他社が販売している商品の売上を合算すると顧客内のシェアが算出できます。このシェアの状況によって、abcdをつけていきます。aは「自社がNo.1供給者の顧客」、bは「No.1供給者がいない顧客」、cは「他社がNo.1供給者の顧客」、dは「自社と未取引の顧客(新規開拓候補)」です。

 No.1の定義は、単品商品で比較する場合は2位を3倍以上引き離した1位、複数商品の合計で比較する場合は2位を√3倍以上引き離した1位となります。需要規模のラージABCと顧客内シェアのスモールabcd2つの軸による分類ができました。これをマトリックスの図で表したものがランチェスター式のABC分析シートになります(図D)。

 3.      顧客の戦略的格付け

 12分類した各顧客の特徴です。

Aa(大口で自社がNO1供給者)・・・最重要顧客でガードが必要。

Ab(大口でNO1供給者なし)・・・Aaを目指して攻略を進める。

Ba(中口で自社がNO1供給者)・・・ガードするとともに繁盛支援を行い総需要を拡大する施策を行いAへ昇格を目指す。

以上のAaAbBaは重要顧客として優先的に営業資源を割り当てます。

 Ac(大口で他社がNO1供給者)・・・他社が強い顧客だかシェアアップのために攻略が必要。

Bb(中口でNO1供給者なし)・・・Baに近そうな顧客を選定して攻略を進める。

Ca(小口で自社がNO1供給者)・・・需要が少ないので時間をかけすぎないようにしてガードする。需要が拡大している急成長企業の場合はしっかりマークする。

AcBbCaは一般的に数が多いので、優先顧客としない顧客のメリハリをつけて対応します。

  Bc(中口で他社がNO1供給者)、Cb(小口でNO1供給者なし)、Cc(小口で他社がNO1供給者)は、時間をかけるべき顧客ではありません。全ての顧客を攻略することは不可能なため、引き合いが発生した場合に対応するなど優先度を抑えます。また、AdBdCdの未取引顧客については、Adを中心に新規開拓候補を選定します。以上がランチェスター式ABC分析の概要です。

生産財における重点顧客戦略について その3

図E(クリックすると拡大します)

図F(クリックすると拡大します)

 1.購買調査の重要性

 ランチェスター式ABC分析を行うためには、顧客の総需要、および競合他社からの購買状況の調査が必要です。ターゲット顧客の件数が少なく、エリアも狭い場合はローラー調査というやり方で、短期集中で購買状況の調査を行うやり方もあります。しかし、アポを取らずに訪問しても有効な面談ができませんので、ある程度時間をかけて対象顧客を訪問し、通常の営業活動の中で情報収集する方法が適切です。

 私もIT機器の営業で、長年、購買調査を行いました。年々継続していると、調査精度が次第に上がります。購買調査は面倒なため営業はやりたがりませんが、面倒な作業は競合他社においても面倒です。他社がやらないことに継続的に取り組めば情報力で差をつけられます。情報なくして戦略なしと言いますが、購買調査をしっかり行い、営業資源の戦略的割り振りをすることで、他社に差をつけられます。

2.重点顧客攻略のためのアカウントプラン

 アカウントプランは「顧客別の営業方針」です。重点顧客の攻略には、顧客の業務課題を把握して、課題に応じたソリューションの提案が必要です。そのためにアカウントプランを作成し、営業は攻略に必要な情報を収集しながら、具体的な提案を行う必要があります。生産財でも、課題解決型の製品を扱っている場合や、購買に関わるキーマンが多い大手企業をターゲットとする場合は、アカウントプランは非常に重要です。

 営業によっては、何十社から何百社という数の顧客を担当しており、全ての顧客のアカウントプランを策定することはできません。よって、ランチェスター式ABC分析のAaBaAbは作成を義務付けるなど、顧客の格付けに応じて、アカウントプランの策定ルールを決める必要があります。

 アカウントプランに盛り込む内容は、4種類の情報項目(図E)と3種類の情報種別(図F)があります。情報項目は「顧客基本情報」「組織とキーマン」「顧客の課題」「課題解決提案のシナリオ」、情報種別は「フォーマル情報「インフォーマル情報」「社内蓄積情報」です。私の経験上、大型案件や戦略的な案件を受注できる営業は、必要な情報を収集してアカウントプランを作成していました。

3.重点顧客戦略の実践

 ホワイトカラーの業務の中でも、営業は属人化しやすいと業務です。理由としては、①アポ取り、面談、資料作成など営業の業務は、分業ではなく個人に集中する傾向がある点、②結果重視の評価制度の影響から営業は自らの営業能力を磨くことに専念して、他の営業とノウハウを共有したがらない点、などが挙げられます。

  属人化すると、組織にとって、以下のようなデメリットが生じます。

・個人の優れたノウハウが社内で共有されない。

・営業相互で活動を分析したり、改善策の実行を行うことができない。

・ノウハウが共有されず、ローパフォーマーが育たない。

  重点顧客のアカウントプランを策定して、商談関係者とミーティングして攻略方針を合意して営業活動を実践します。そして結果を検証して、次回のアクションにつなげていきます。このサイクルを回すことで、営業の属人化を防ぎ、組織的な営業を展開できます。 顧客の格付けに基づいて抽出した重点顧客に対して、優先的に営業資源を割り当て、さらにアカウントプランに基づいて戦略的な営業活動を展開します。このやり方が、営業の属人性を排し、組織的な営業活動を展開するために有効となります。

Vol.1

ランチェスター戦略とは その1

図(クリックすると拡大します)

1.ランチェスター戦略について

 ランチェスター戦略は成熟市場で有効な競争戦略です。1970年代前半、オイルショックによって高度経済成長から不況となった際、経営コンサルタントの田岡氏は、市場縮小の局面で企業はどうやって勝ち残りを目指すべきかを考え、ランチェスター戦略を提唱しました。
 
ランチェスター戦略は、トヨタ自動車や日本生命など多くの大企業や、ソフトバンクやHISなど当時のベンチャー企業に幅広く採用されました。ソフトバンクの孫社長は病気療養期に、膨大な本を読みましたが、一番ためになったのは孫子の兵法とランチェスター戦略であると公言しています。
 
わかりやすい理論と豊富な実績から、ランチェスター戦略は「競争戦略のバイブル」と言われ、業種業態や企業の規模に関係なく、多くの企業に採用されています。

 2.ランチェスター法則について

 ランチェスター戦略は日本人の田岡氏が策定した競争戦略ですが、英国の航空工学研究者のF.W.ランチェスターが、第一次世界大戦の時期に発表したランチェスター法則がベースとなっているために、ランチェスターという名前がついています。
 
ランチェスター法則は、第一法則と第二法則の二つがあります。(図参照)  
「武器効率」とは、敵と味方の武器性能や兵士の技量を比率化した数値であり、「兵力数」は兵士や戦車などの数です。「武器効率」と「兵力数」を掛けたものが、その軍隊の戦闘力(=敵に損害をもたらす力)となります。

 
ランチェスター法則は、戦い方によって適用が分かれます。
<ランチェスター第一法則>
 
第一法則は、日本の戦国時代のように、一対一で刀など原始的な武器で敵と接近して戦う場合に適用されるものです。第一法則は「戦闘力=武器効率×兵力数」で表され、同じ兵力数であれば武器効率が高いほうが勝ち、同じ武器効率なら兵力数が多いほうが勝つシンプルな法則です。敵に勝つためには、敵を上回る武器効率か兵力数を手にすればよいということです。

 <ランチェスター第二法則>
 
第二法則は、近代における確率兵器や火力兵器を用いた戦闘で適用される法則です。集団対集団で、同時に複数の敵を攻撃できる兵器を使って、広い範囲で遠隔で戦う場合に適用されます。第二法則は「戦闘力=武器効率 × 兵力数の2乗」で表され、第一法則との違いは、武器効率は同様ですが、兵力数が2乗となる点です。機関銃のような確率兵器は相乗効果を発揮するため、兵力数が2乗に作用します。よって、兵力数が多いほうが極めて有利であり、兵力が少ない軍は、第二法則が適用する戦いでは勝つことは困難となります。
 
それでは兵力で劣る劣勢軍には勝ち目はないのでしょうか?確かに第二法則の適用下では困難です。しかし、第一法則の適用下であれば、武器効率を兵力比以上に上げることができれば勝てる可能性があります。または、局地戦に持ち込んで兵力を集中させ、その局地において兵力数で敵を上回れば勝てる可能性があります。織田信長の「桶狭間の戦い」のような局所優勢です。

 <劣勢軍が優勢軍に勝つポイント>
 
・第一法則が適用する局地戦、接近戦、一騎討ち戦で戦う。
 
・武器効率を兵力比以上に高める。
 
・兵力を局地に集中して局所優勢の体制を築く。

 3.ランチェスター法則をビジネスに応用した「ランチェスター戦略」
 
ランチェスター法則をビジネスに応用したものがランチェスター戦略です。戦闘力を営業力に置き換えると、第一法則は「営業力=武器効率×兵力数」、第二法則は「営業力=武器効率×兵力数の2乗」となります。ビジネスにおいては、「武器」は商品力など質的な経営資源、「兵力」は販売力など量的な経営資源です。

ランチェスター戦略とは その2

図(クリックすると拡大します)

1.ビジネスで小が大に勝つためには

 ランチェスター法則は、ビジネスにおいては、第一法則は「営業力=武器効率×兵力数」、第二法則は「営業力=武器効率×兵力数の2乗」と置き換えることができます。
 
「武器効率」は質的な経営資源で、製品やサービスの質、技術力、営業スキルなどです。「兵力数」は量的な経営資源で、営業マンの数、販売代理店の数、店舗数などです。質的な経営資源と量的な経営資源を掛け合わせたものが、ビジネスにおける営業力を決定づけます。
 
特定商品、地域、顧客層といった部分的・局地的なビジネス環境であれば第一法則が、総合的・広域的なビジネス環境であれば第二法則が適用されます。総合的・広域的なビジネスにおいては、第二法則が適用され、量的な経営資源が2乗倍となるため、競合に比べて経営資源が乏しい企業は、局地的な競争に活路を見出さない限り勝ち目は薄くなります。かつて日産自動車が苦境に陥ったのは、量的な経営資源が上回るトヨタ自動車に対して、商品ラインナップでもチャネル展開の面でも、真っ向から対抗しようとしたことが要因のひとつです。

 2.ランチェスター戦略における「強者」「弱者」

 ランチェスター戦略は市場シェアを基準にして弱者と強者を定義づけます。強者は市場シェア1位の企業であり、弱者は2位以下のすべての企業です。強者と弱者は、企業の規模の大小は関係なく、また、強者と弱者は、国内シェアのような大きな単位シェアだけではなく、商品・地域・顧客層といった競合局面ごとに分かれます。例えば、商品で言えば、ホンダは二輪(オートバイ)では強者ですが、四論(自動車)では弱者となります。地域で言うならば、国内のコンビニの強者はセブンイレブンですが、北海道ではセイコーマートです。このように競争局面によって、強者と弱者は入れ替わることがあります。
 
商品・地域・顧客層の市場シェアに関する情報がなく、自社が弱者か強者かの見極めが難しい場合は弱者と判断しましょう。迷った場合は弱者と判断すべきなのは、強者が弱者の戦略を取っても問題はありませんが、弱者が強者の戦略をとってしまった場合は、苦境に陥る可能性が大きいためです。

 3.「弱者の戦略」と「強者の戦略」

 弱者の戦い方は第一法則に従うことが重要です。第一法則は「営業力=武器効率×兵力数」であり、弱者の基本戦略は武器効率を高める「差別化戦略」です。差別化とは商品力やサービスなどで質的な競争優位性を築くことです。基本戦略に加え、弱者の5大戦法は、「局地戦」「接近戦」「一騎討ち戦」「一点集中主義」「陽動戦」となります。(図参照)
 
シェア1位の強者は、総合的・広域的な戦いを行うことで圧勝が期待できるため第二法則の下、強者の戦略を採用します。強者の基本戦略は「ミート戦略」で、弱者が展開してくる差別化戦略をミート(模倣)して差別化を封じ込めることです。かつて松下電器(現在のパナソニック)が、競合のソニーが新商品を開発するたびに、二番手商品を発売してマネシタ電器と揶揄されました。しかし5万店の松下ショップを組織化し、家電流通を抑えていた強者であったために有効に機能した正当な戦略と言えます。
 
強者の基本戦略の「ミート戦略」に加えて、強者の5大戦法は「広域戦」「遠隔戦」「確率戦」「総合主義」「誘導戦」です。

ランチェスター戦略とは その3

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1.ランチェスター戦略の「3つの結論」

 NO1(ナンバーワン)主義>

 NO1主義はランチェスター戦略の代名詞です。ランチェスター戦略ではシェア1位を強者といい、2位以下を弱者と呼びますが、1位であっても2位以下と僅差な状態では盤石ではありません。2位以下の企業も逆転を目指して激しい競争を挑んできますが、2位以下を圧倒的に引き離した1位が相手では、2位以下はまともに張り合わずに棲み分けを意識するため、1位の収益性は安定します。
 2位以下を圧倒的に引き離すことを、ランチェスター戦略では単なる1位ではなく、
NO1と称します。引き離す数値はルート3倍(約1.7倍)が基準ですが、市場における2社間競合の場合や、特定顧客内の単品のシェアで比較するような局地戦の場合は3倍とします。
 
NO1になると様々なメリットがあります。利益性が向上し、人に記憶されやすくなるため口コミや紹介も増加します。また人の採用の際も有利となります。地域、商品、顧客層などを絞って、まずは小規模でもいいのでNO1領域を確立します。NO1領域で知名度が上がり利益性が向上しますので、その利益を次のNO1領域へ投資して、徐々にNO1分野を拡大させていくことが重要です。

 <足下の敵攻撃の原則>

 成長市場であれば市場の伸びに応じて売上を伸ばすことができますが、成熟市場においては競合企業に勝たなければ売上を伸ばすことはできません。しかし、全ての競合企業と全方位で競っていると、消耗戦となってしまいます。よって、競合対策すべきなのは「足下の敵」です。足下とは自社よりも1ランク下の競合企業です。自社が1位の場合は2位、2位の場合は3位です。
 ただし、どのような場合でも足下の敵をマークすればよいわけのではなく、企業規模、地域性、競合の成長性などを踏まえた上で検討します。大事なこととしては、全方位で競合対策をするのではなく、対策すべき競合企業を絞ることです。

 <一点集中主義>

 NO1になるために、1位の強者は「足下の敵攻撃の原則」で2位を競合対策します。弱者は、広域戦で強者に挑んでも勝つのは難しいため、小規模領域で勝利を目指します。特定地域・特定顧客層・特定商品など、戦う領域を細分化することで、1位を目指せる分野があるかもしれません。弱者はそこを狙うことでNO1領域を作ります。集中すべき領域を定めて、その領域に量的な経営資源を集中投入し、局所優位を目指します。(図参照)

 「足下の敵を攻撃、一点集中でNO1を目指す」これがランチェスター戦略の三つの結論です。

ランチェスター戦略とは その4

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1.市場シェア目標値

 ランチェスター戦略を提唱した田岡氏は、社会統計学者の斧田氏と共に、市場シェアの3大目標値(73.9%、41.7%、26.1%)を導きました。更に3大目標値に至るまでの4つの目標値(19.3%、10.9%、6.8%、2.8%)を設定し、市場シェアの目標数値として整理しました。7つの目標数値は、市場シェアを基にした現在の競争上の位置づけの把握と、今後のシェアアップの目標を策定する際の基準値として活用することができます。(図参照)

 2.上限目標値(73.9%)

 上限目標値の73.9%のシェアを取れば、他の全ての競合を足しても26.1%以下にしかならないため、約3倍差をつけることができます。この状態は逆転が困難となるために市場シェア獲得の最終目標数値とされます。
 市場独占の
100%を目指すとデメリットもあります。市場には自社にとって優良顧客のみとは限りません。移動効率が悪いとか、需要の大きさの割に要求が多いなど対応がしずらい顧客もあり、そのような顧客は競合企業に対応してもらった方がよいという考え方もあります。市場の拡大の面でも、一社独占では市場が活性化しません。競争があるからこそ、需要が活性化されて市場が拡大します。よって競合企業は存在するが、地位逆転のリスクが少ない3倍差がある73.9%こそ、収益性や安全性が最も高まる上限目標値です。

 3.安定目標値(41.7%)

 41.7%を取ると市場における地位が安定します。安定というと過半数の50%ではないかと思われますが、どんな市場でも、通常5社程度は競合が存在するので40%あればたいがいはNO1になれます。あれだけ圧倒的に強いイメージがあるトヨタ自動車も国内シェアは約4割です。安定目標値に達すれば、2位以下の企業は、1位企業に全面競争を仕掛けても逆転が困難となるため棲み分けを意識し、1位企業の安定性が高まります。

 4.下限目標値(26.1%)

 26.1%のシェアがあるとほとんどの場合は1位となります。多数企業が乱立する市場では26.1%以下でも1位になる場合もありますが、その場合、2位とは僅差の1位となるため強者の戦略を取る事ができません。よって1位になれば、まずは強者の下限目標である26.1%を目指す必要があります。26.1%は強者の最低条件です。 26.1%以上を確保しておけば、仮に市場の全ての企業が合併しても73.9%を下回り、その差3倍未満で生き残りが可能です。26.1%は生き残るための下限の数値と言えます。

 5.三大目標値まで目標値(19.3%、10.9%、6.8%、2.8%)

 73.9%、41.7%、26.1%が「田岡・斧田シェア理論」と呼ぶシェアの三大目標値です。三大目標値の策定した後、26.1%に到達するまでのマイルストーンとなる目標数値の必要性を認識して、故田岡氏が四つの目標値を設定しました。

ランチェスター戦略とは その5

図(クリックすると拡大します)

 ランチェスター戦略は全社の戦略立案において使われますが、営業マネージャーが自ら率いる営業現場単位の戦略立案においてもよく使われます。最前線である営業現場にこそ、市場地位に応じた戦略が必要となるためです。
 
地域・商品・顧客層によって弱者と強者は入れ替わり、大企業でも強者とは限りません。また、中小企業であっても特定の市場では強者ということがよくあります。同じ会社であっても、営業現場単位で、直面している市場に応じて「弱者の戦略」や「強者の戦略」を、臨機応変にとる必要があります。
 ランチェスター戦略
の特徴として「実務体系」が整備されていることが挙げられます。「重点地域でNO1になる」「ターゲット顧客のシェアを向上させる」ケースなどにおいて、実績と事例が豊富な実務体系に基づき成果を追及することができます。(図参照)

 実務体系1「地域戦略」
 
地域戦略は、攻略すべき重点地域をシェアNO1にするための実務体系です。特徴としては、市場規模、人口、世帯数などを定量的に把握するだけでなく、地域の特性(点・線・面、うちもの・そとものなど)を定性的にとらえる独自のノウハウがあります。

 実務体系2「シェアアップ戦略」
 
シェアアップ戦略は、担当している販売チャネルや顧客において、シェアを上げていくための実務体系です。特徴としては、特定チャネルや特定顧客のシェアを把握するやり方のノウハウがあり、顧客の需要規模と顧客内シェアから、「ランチェスター式ABC分析」によって顧客を格付けし、シェアアップ目標と戦略を策定するノウハウがあります。

 実務体系3「営業戦略」
 
営業マネージャーが営業組織をマネジメントして、成果を追及するための実務体系です。重点顧客の攻略方針や、顧客情報の収集、商談プロセスの最適化など、顧客攻略の実務に重点を置いています。特徴としては、顧客のシェアアップを図るために情報を重視し(情報なくして戦略なし)、ターゲット顧客の情報を収集して、攻略するための営業プロセス最適化のノウハウがあります。

 実務体系4「市場参入戦略」
 
「地域戦略」「シェアアップ戦略」「営業戦略」は、成熟市場においてNO1分野を確立するための実務体系です。それに対し、新規に市場参入する際に、市場の時期別(導入期・成長期・成熟期)の戦略を体系化したものです。特徴としては、市場参入時期によってとるべき戦略(グー・パー・チョキ)において独特のノウハウがあります。

◎まとめ
 ランチェスター戦略は「小が大に勝つための原理原則」です。原理原則なので、知っていようが知っていまいがそうなります。よって、正しく理解して活用することで、成果につながりやすくなります。
 
ランチェスター戦略はビジネスはもちろん、個人(スポーツや社内の出世競争など)でも使えます。勝敗を分けるのは必ずしも総合力ではなく、たとえトータルの能力では負けても、何か一つに一点集中して差別化することで、小さな領域であればNO1になれます。これで成功している事例がたくさんありますので、勝てる市場・勝てる領域を見出して勝負しましょう。

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